ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

boardの価格戦略

戦略というほどのものはないのですが、boardの価格に関する方針について書きたいと思います。

 

最初にうちの会社について簡単に書くと

・受託をやりながらサービス開発している
・上場もバイアウトも目指さない。身の丈に合ったサービス開発・運営
・会社の規模(人数)を大きくしない。10人前後まで。(現在8人)
・営業・マーケティングにコストはかけず地道に伸ばしていく

というスタンスでやっていて、boardは現在、有料登録が1700社を超えたところといった状況です。

詳しくは以前書いた下記をご参照頂ければと。

tamukai.blog.velc.jp

 

boardの料金体系

boardの料金は、
・プラン別料金
・有料アドオン
・郵送代行
の3つに分類されます。

プラン別料金は、Personal(980円)、Basic(1,980円)、Standard(3,980円)、Premium(5,980円)の4段階で、基本的にはユーザ数に応じてプランが分かれています。

Premiumプランの50名以上の場合は1ユーザ月額216円で追加することができます。

有料アドオンは、現在4つあり、月額324円または540円です。

郵送代行は、1通あたり170円(切手代込み)です。

the-board.jp

 特徴としては、以下の点かと思うので、その辺の背景を書いていきたいと思います。
・提供している機能に対してとても安い(と言われる)
・有料アドオンという形態を取っている
・プランは人数による違いがメインで機能差は少ない

 

リリース時に料金はどのように決めたか

ベータ期間中に知り合いから、「仕事で使うものを無料で使いたくないので、早く有料スタートして」って言われて急いで検討したので、正直なところ、あまり深く考えていませんでした・・・。

boardは、一般的な請求書サービスと中堅向けのERP・業務システムの中間に位置するようなサービスですが、入口としては請求書サービスと比較されることが多いだろうなと思っていたので、他の請求書サービスの価格帯をある程度参考にして決めました。

また、バックオフィスの経験をしてから起業する人はほとんどいませんので、boardを使うことで、最低限やらなければいけないことや見なければいけない数字などがわかるようにしたいという思いもboard開発の目的の1つです。

自分自身が起業した直後のことを考えると、バックオフィスのサービスに月数万円は出せないなあという感覚があるため、起業直後から使える価格帯にしたいと考えていました。

今から思えばもう少しちゃんと考えれば良かったのかなとは思いますが、後悔はしてないし、仕入原価がかかるものでもないので、この価格帯に決めた以上は、これで事業として成立させるのが僕の仕事という考え方でやっています。

 

かなり機能が増えても基本料金の価格改定はしていない

料金は2014年のリリース時から変更しておらず、当時でも「安い」という反応が大半だったのですが、それから相当量の機能が追加されているため、最近では「安すぎて心配なのですが」「もう少し料金を上げてもいいのでは?」「数倍でも使いますよ」と言われることが多くなりました。

ただ、今のところ、機能が増えても料金は変えていません。
*税込価格で金額をそろえたので、消費税増税の時はどうするか迷っていますが・・・

「機能追加によって提供できる価値が増えたので価格を改定する」というのはよくある話ですし、提供価値が上がっているのであれば当然そうなると思うのですが、その機能が必要ないユーザにとっては単なる値上げでしかないので、サービス提供者側の理論だなあと感じています。

特にboardのターゲットユーザである中小企業の場合、今の機能でも十分ということも多々あります。その場合、値上げは満足度の低下を招くし、何よりも「また値上げするかもしれない」というように、サービスに対する「安心感」が損なわれてしまいます。

最近、弊社で使っている、あるサービスの月額料金が倍になる価格改定があったのですが、さすがに倍はキツく、最初からこの価格なら導入していないなと思いつつ、乗り換えを検討し始めました。

 

boardのように、営業・マーケティングをほとんどやらずに、あまり表に出ないで地道に伸ばしていくスタンスでやっていると、値上げによって売上が増えることよりも、そこで失われる安心感・信頼関係の毀損のダメージの方が大きいなと。

あとは、価格が上がるほど営業コストもかかると思っています。うちのように営業がおらず、「営業せずに売る」という方針を軸に考えた場合、あまり価格は上げられないと考えています。

 

また、「上のプランほど使える機能が多い」というパターンも考えたのですが、ユーザ視点で考えると柔軟性がなく、「上のプランのうち、この機能だけ使いたいだけなのに」というケースも結構あるように思います。

 

そのため、boardのプランは人数ベースで機能差は最小限にし、機能が増えてもプランの料金は変えずに、「これはプラスαで頂きたいなあ」という一部の機能を「有料アドオン」という形で、必要な人のみ払って頂くという方法を取っています。

ただ、有料アドオンは増やしすぎると「結局いくらかかるの?」というのがわかりにくくなるため、あまり安易には有料アドオン化しないように気をつけています。

今のところ有料アドオンは4つしかなく、ほとんどの追加機能は標準機能として追加しているのですが、プラスαの機能で開発規模が大きかったものを中心に、有料アドオンとして提供しています。

有料アドオンも、月額324円・540円といった価格帯なので、個別相談会などで価格を説明すると、笑われることも多いですがw

 

営業・マーケティングコストをかけられないゆえの選択

boardは、リリース以降、ほとんどの月で有料継続率が99%以上を維持しています。
*3月だけ退会数が倍くらいになるのですが、たぶん期が変わる会社が多いからですかね。

通常、価格が高い方が解約判断がシビアになるように思います。boardの場合、費用対効果が高いと感じて頂いていることが多いので、その結果、解約率が低くなっているように考えています。

うちのように、営業・マーケティングにコストをかけられない場合、新規獲得を急激に増やすということは難しいです。そのため、一度使い始めてくれた方には、多少安くても長く使ってもらう方がありがたいと考えています。

もちろん、長く使ってもらうためにはシステムそのものの価値が第一なので、ここ3年間は毎年40回以上リリースして、継続的に改善・機能追加を続けています。ただ、ユーザさんの中での意思決定(導入判断)としては、価格と価値のバランスは重要なので、それを「費用対効果の高さ」重視に寄せている感じです。

 

ターゲットがぶれないための価格設定

これは完全に後付けというか、「こういう効果もあるな」と思ったものですが。

業務システムの場合、小さい会社から大企業まで全部にとって使い勝手が良いものというのは無理だと思っています。UI的な意味ではなく、システムの設計としてニーズが異なります。

アップセルを狙うためには、どうしても規模が大きい会社をターゲットにしていく必要があると思っていて、そうすると、当初のターゲット層とずれてきます。

その結果、大企業が増えて売上は向上したけれど、元々使ってくれていた小さい会社からすると使いにくくなった、というのは避けたいと考えています。

実は最近、自分自身が他のサービスを使っていてそう感じることが何度かあって、改めて、「あー、やっぱりターゲット層を上に引き上げるとこうなるんだなあ」と思ってたりします。これはビジネスとしては悪いことではなく、ただ自分がそのサービスのメインターゲット層ではなくなっただけなのですが、使いづらさを感じてしまうのは正直あるなと。

そのため、boardは「数人〜数十人規模」がメインターゲットというのはぶらさず、「その規模で無理なく払える金額」で、サービスを提供し続けようと考えています。

 

この価格戦略の課題

売上の成長率が上がらない

このスタンスは、当然、客単価は上がりません。

リリースしてから4年ほど経っていますが、初期の頃と比較すると、1アカウントあたりの平均単価は1.5倍程度で、ほとんど上のプランを使う会社が増えた分、という印象です。

うちは資金調達もしていないし、「いつまでに売上をここまで伸ばす」といったプレッシャーも目標もありませんので、のんびりはしていますね。


ただ、資金力が豊富なわけではないので、それでも十分利益を出せるような運営をするようにしています。

基本的に営業も広告もしておらず、マーケティングコストがほぼかかっていない状態で、内部の人件費とサーバやセキュリティ対策関連のコストがほとんどです。

人件費も、開発は僕を入れて2人、CSは最近2人体制になったばかりです。開発とサポート以外で人手がかかることを可能な限り減らして、最小限の人数でやっています。

代理店が機能しにくい

これはリリースしてから気づいたのですが、低価格だと代理店制度がほぼ機能しないですね。代理店にとって取り分が少ないので、boardを積極的に売ろうとするメリットがないので。

そのため、現在代理店として紹介が増えているのは、税理士事務所など既存クライアントに対してboardを紹介しているケースですね。

価格が低いと、広告もペイしにくいですし、売り方の選択肢が狭まるということを後から気づきました。

 

おまけ

いち開発者として、価格改定に伴う対応は、面倒だしリスクもあるので、正直気が乗らないんですよね・・・。

その時間・労力・神経を、他の開発に回したいという思いもあります。自分の中では、経営者として短期的に売上を増やすことよりも、boardを強くして中長期的な売上の土台を固める方が優先度が高いんですよね。