ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

SaaSの問い合わせを減らすための改善

現在、boardはリリースしてから5年目ですが、リリースから4年ほどは、サポートはほぼ自分一人でやってきたので、「社長もサポートやっている」というより「社長しかサポートやっていない」みたいな状態だったのですが、やはりリリースから3年ほど経って、導入社数が700〜800社くらいになってきた頃には、一人で対応するのがだいぶ大変になってきていました。

2年ほど前に採用したCSメンバーが、仕事内容やカルチャー的に合わずにすぐに退職することになった際、「導入社数の増加とともに、このまま問い合わせが増え続けると一人では対応できなくなるのが目に見えていてやばい」という状況だったため、本格的に「問い合わせを減らす取り組み」を始めました。

 

ちなみに、boardというサービスやヴェルクという会社は、ざっくり以下のような感じでやっています。

  • boardは、見積書・請求書の作成から業務管理・経営管理などを行うことができるサービスで、主に数人〜数十人規模の中小企業がターゲットユーザ層
  • boardの有料導入社数はもうすぐ1900社
  • 弊社(ヴェルク)は現在7名の会社で、10名前後までの小規模組織を維持したいという方針

詳しくは下記をご覧頂ければと思います。

tamukai.blog.velc.jp

 

取り組みの概要

ヘルプを見てもらいやすくするための工夫や、問い合わせが多い箇所を中心に、1〜2週間に1つずつくらいのペースで改善をしていきました。

元々、1〜2週間に1回くらいのペースで何かしらリリースしていたので、リリースペースは変えず、それに乗せていく形です。

改善対象を決めるのは、単純な問い合わせ件数ではなく、問い合わせ対応をしている中で感じた「ここをこういう感じで改善したら問い合わせ減りそう」という肌感覚を大事にして、対応箇所や方法を検討しました。

ちなみに、問い合わせが多くても、内容が複雑なものはこの取り組みではやらず、どちらかというと、ヘルプを見れば一発で解決するような簡単な問い合わせを減らすことを目的としました。

 また、問い合わせが多いということは、わかりにくい点・躓きやすい点だと思うので、そういった箇所の改善は、ユーザさんがスムーズに使ってもらうためにも重要です。

 

取り組みの成果

2018年の1年間で、有料導入社数が約700社ほど増えたのですが、その1年間の問い合わせ件数の推移が以下です。

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 月によって上下はありますが、導入社数は増加してても、問い合わせ件数はそれほど増加傾向にはありません。

ちなみに返信数が以下。

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 1回の問い合わせで何度もやり取りが続くことがあるので、普段は基本的には問い合わせ数ではなく返信数を見ているのですが、これも同じような傾向です。


その結果、2018年前半まで(1400社くらいまで)は自分一人体制でなんとかしのげて、2018年中盤から徐々に自分ともう1名のCSメンバーの二人体制になり、今年からはCSメンバーが二人になり、その二人で余裕を持って回せています。

1900社+お試し中の方々を、自分を除いた二名で回せている状況は、かなり良い感じだなと思っています。


以下、実際に取り組んだことを紹介していきます。

 

初回ログイン時のセットアップウィザード

boardの各種設定のデフォルトは、一般的に多そうな設定をデフォルトにしていますが、会社や業種によって、ばらけるような設定もあり、これらはどうしても問い合わせが多くなっていました。

例えば、以下のような設定です。
・見積書や請求書への単位の表示有無
・見積書や請求書での内税での入力
・窓付き封筒の利用有無

そこで、会員登録後の初回ログイン時に、ウィザード形式でこれらの設定を選んでいくようにしたところ、これらの設定に関する問い合わせは大幅に減りました。

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ちなみに、初回ログイン時にウィザードを入れることで、ここでの離脱が増えることを懸念していたのですが、それはほぼありませんでした。

 

ヘルプ検索

元々、ヘルプページ上で検索はできたのですが、board内からヘルプの検索を直接できるようにしました。

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これによって、ヘルプのアクセス数は3倍以上になり、簡単な問い合わせも減り、「ヘルプを見てもわからなかったので質問させてください」といった感じで、ヘルプを見て頂いた上での問い合わせが増えました。

 

ヘルプの内容の改善

boardのヘルプはかなりしっかり書いているので、ヘルプを評価して頂くことも多いのですが、「どの権限でこの機能を使えるのか」というのがわかりにくく、「ヘルプのスクリーンショットにあるメニューが表示されていない」系の問い合わせはそれなりにありました。

そこで、各ヘルプページの先頭に、その機能を利用できる権限を書くようにしました。

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これによって、権限関連の問い合わせはかなり減りました。

 

仕様に気づく仕掛け

多くの場合、事前にヘルプをしっかり読んでから使うのではなく、操作しながら使い方を把握していくことが多いかと思います。

そのため、表面的には把握しにくい仕様は、操作の過程で「あ、こういう仕様なんだ」ということに気づくきっかけを入れるようにしてみました。

このための仕掛けは色々やったのですが、細かい仕様の話になってしまうので、わかりやすい例で、「失注」ステータスのケースを紹介したいと思います。

 

受注ステータスという受注状況を管理するステータスに「失注」というものがあります。

失注案件はデフォルトでは案件一覧に表示されなくなるため、「失注にしたものが見つからない」という問い合わせが結構ありました。

「失注にすると、デフォルトでは案件一覧に表示されない」という仕様は画面上からは把握できないんですよね。

変更時に「確認ダイアログを出す」という方法も考えたのですが、確認ダイアログって読まずに押されることが多いので、あまり効果がなさそうな気がしました。

そこで、「失注」ステータスに変更する時だけ、以下のように、失注案件の検索方法のスクリーンショット付きの確認ダイアログを出すようにしました。

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普通の確認ダイアログよりも目立つので見てもらいやすくなり、変更前に失注ステータスの検索方法が異なることを把握しやすくなります。

この結果、失注ステータス関連の問い合わせがだいぶ減りました。

 

問い合わせが多い要望を集中的に対応

boardでは「開発ロードマップ」を半年ごとに決めて公開しているので、軽微なもの以外は、あまり途中で差し込むことはしないようにしているのですが、2ヶ月ほどの間に限定して、集中的に、問い合わせが多く、かつ「時間があれば対応したい」と思っていたものを一気に対応しました。

質問や要望が多いものを中心に対応するので、それらが対応されれば、当然その分の問い合わせは減ります。

必要ないものを無理に対応することはしないですが、「時間があればやりたい」と思っている軽微なものは、どんどん対応していった方が、お互いにとっていいなと思いました。

そのため現在では、Trelloに「軽微な改善」リストがあって、ここにあるものは、他の開発メンバーがスキマ時間に勝手に取ってやっていきPR出してもらうという運用にしています。

ちなみに、本来の開発の進捗に影響しないよう、「軽微な改善」リストは、数十分から数時間程度で終わるものに限定しています。

 

時間外問い合わせの自動返信

これは、「問い合わせを減らすための施策」としてやったものではないのですが、予想外に効果的だったので紹介したいと思います。

boardのサポートではintercomを使っていて、intercomに時間外の自動返信の仕組みはあるのですが、日本語が微妙で(今はわからないですが少なくとも当時は)、自分で初めて見た時に、意味がよくわからず「?」だったため、これをユーザさんに体験させるわけにはいかないなあと思い、使っていませんでした。

全て自分が回答していた頃は、時間外であろうと、仕事している時だったらすぐに回答していたのですが、他のCSメンバーにそれをやらせるわけにはいかないので、昨年途中から時間外は回答しないようにしました。

ただ、そうすると、ユーザさんから見ると、いつ返事が返ってくるのかわからない状態になってしまうので、自動返信の仕組みを作りました。

 

時間外に問い合わせをすると、以下のような自動返信が返ります。

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仕組みとしてはシンプルで、

問い合わせ→intercom webhook→AWS API Gateway→Lambda→intercom API

という形で、intercomのwebhookとAPIを使って自分で自動返信の仕組みを作った形です。

 

自動返信自体は問い合わせ数を減らす取り組みではなく、「いつ返信がくるのかわからない」という課題の解決のために作ったのですが、この仕組みを入れてから、サポート時間外であることを明確に把握できるようになったからか、以前に比べて時間外の問い合わせが減りました。

たぶん、「時間外だから」ということでヘルプなどで自己解決したんだろうなと思っています。


ちなみにこの自動返信の方法だと、intercomの自動返信機能とは異なり、メッセージも自由に書けるし、曜日だけでなく日本の祝日・年末年始にも対応できるし、平日の臨時休業にも対応できるのでとても良いです。

 

まとめ

問い合わせ自体は気軽にして頂きたいと思うのですが、そもそも質問をしなくて使える方がずっと良いと思うので、とくに簡単な機能や設定に関しては、問い合わせをせずに気づける・自己解決できるための改善を継続することは、双方にとってメリットが大きいなと感じています。


問い合わせは改善の源泉で、これを定量的な数字ではなく、ユーザさんを肌で感じて考えることはとても大事だと思っています。

CS二人体制が起動に乗り始めたため、先月からは僕が常時回答することは減り、難易度が高いものや問い合わせが立て込んだ時、CS二人のうちどちらかが休みの時などだけになりました。

でも、今のところ、毎日全ての問い合わせは目を通していて、どういった問い合わせが多いのか、どういったことで困っているのかなど、機能追加や改善は随時あるので、それによる変化は常に追うようにしています。

 

ちなみに余談ですが、この一連の取り組みで、問い合わせ数の増加を抑えられたという効果と共に、「簡単な問い合わせ」が明確に減ったので、昨年入ったCSメンバーが、最初の頃に簡単に対応できるものが少なく、CSメンバーの最初のハードルが高くなったという副作用がありました・・・。