ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

boardのCS(カスタマーサポート)で大事にしているスキルを育てるために取り組んでいること

以前書いた「boardのCSで大事にしているスキル」では、どういったスキルを重視しているかという考えを書きましたが、今回は、それらのスキルを育てるために取り組んでいることを紹介したいと思います。

 

ちなみに、boardは、見積書・請求書作成を中心とした業務管理・経営管理のB2BのSaaSです。

そのため、サポートに頂く問い合わせは、機能そのものの質問に加え、「こういう業務があるんだけど、どうしたらよいか」のような、業務的な背景を踏まえた問い合わせも多くあります。

 

全回答のレビュー・フィードバック

昨年3月に1人目のCSメンバーが入社してから約半年間は、CSメンバーの回答前に僕がすべて内容を確認し、レビュー・フィードバックをした上で回答していました。

最初の頃は「回答が間違っていないか」という確認が主でしたが、ある程度回答ができるようになってからが、この取り組みの本番です。

レビュー・フィードバックの中では以下のような点を見ていました。

  • 質問の意図・本来やりたいことを的確に把握できているか
  • 相手の立場・理解度・業種・習熟度に応じた説明ができているか
  • 説明が簡潔でわかりやすく、誤解を生まないようになっているか
  • 回答に関係ない不要な説明が含まれていないか
  • 目の前のことにだけ回答していて、本質的な説明が抜けてしまっていないか
  • マニュアル的な回答になってしまっていて、微妙な会話のズレがないか
  • 日本語として適切か、読みやすいか

boardのCSで大事にしているスキル」の中で書いたようなことを身につけるため、上記のようなポイントで回答をチェックし、フィードバックしていました。

とくに「質問の意図・本来やりたいことを的確に把握できているか」はとても難しいです。

質問の中で、背景や目的に関する情報が抜けていることも多いため、解釈の精度を高めていくということは、素早く適切な回答のためだけでなく、サポートの運用効率のためにも極めて重要と考えています。

昨年1年間で見ると、平均的な1日の返信数は30件台なので、毎日30件の回答とフィードバックをしていた形です。

 

CSの仕事は、まずは知識的なキャッチアップが前提になりますが、それ以降の回答のクオリティは、上記のような点が重要で、しかも、何か本で読んで身につくわけでもなく、とても難しいコミュニケーションの部分になるので、boardのCSとしての考え方を共有した上で、とにかく数をこなしてフィードバックを繰り返し、身につけていくというスタイルで取り組みました。

 

以前、この話を他のSaaSをやってる社長さんに話したところ、「めちゃくちゃ田向さんのコストかかってますよね…」って言われたのですが、本当にその通りで、めちゃくちゃコストかかってます。

基本的に僕は、社長っぽいことはほとんどやっていなくて、ほぼ引きこもって開発とサポートをやっている感じなので、CSメンバーの育成はそれだけ重要な位置づけとして、僕自身の時間を相当割いてきました。

 

日本語力の強化

普段当たり前に使っている日本語ですが、正しく、わかりやすく、読みやすい文章を書くのはとても難しいと思っています。

boardのCSはチャットサポートなので、テキストコミュニケーションです。文章で説明するのが仕事になるため、わかりやすく読みやすい文章はとても重要になります。

当初は、文章の書き方やコミュニケーションギャップを回避するための話し方などの本を中心に勉強し、CSの中で取り入れられそうなものを取り入れてみました。

昨年11月に、フリーランスで編集者をやっていた @note103がCSメンバーとして入社したので、現在は、日本語で困ったら彼に聞くことができますし、回答がちょっとわかりにくいかなあと思ったら編集してもらうことができます。

また、Slackに日本語に関するチャンネルがあって、ちょっとした書き方・表現などを聞けるようにしています。

 

PR(広報)視点でのレビュー

これはちょっと変わった取り組みで、PR(Public Relations)視点で、サポートの回答を改善していこうということをやってました。

boardリリース当初に広報で手伝ってもらっていた13xbordersの岡本さんと、月1で2〜3時間ほどディスカッションの時間を取って、いくつか難しかった質問と回答を題材に、以下のような点でレビュー・ディスカッションしています。

  • 相手の意図を正しく汲み取れているか
  • 回答はわかりやすいか
  • 回答から受ける印象はどうか
  • 回答の文章そのものの改善

最初に書いた「レビュー・フィードバック」とポイントは同じなのですが、これを第三者で、かつ「広報」という仕事をしている人の視点でフィードバックをもらうことで、「受ける印象の改善」をできないか、というのが当初の狙いです。

最初に岡本さんにこの依頼をした際、さすがに戸惑っていましたが、実際やってみるととても良かったです。

当初想定していたのは上記に書いたような点の改善で、それはもちろん明確に良くなりました。

それに加え、「相手の質問をこう解釈した」「なぜ自分はこういう説明をした」ということを声に出して人に説明するということ、それが不明瞭であれば容赦なく突っ込まれるということによって、たぶん、本人が今までやったことがないくらい真剣に、文章やテキストコミュニケーションに向き合ったんだと思うんです。

それが予想以上の成長スピードを生んだと思うし、何より、テキストコミュニケーションに関して自分で考えて改善できるようになったのが、とても大きかったと思います。

 

回答例の蓄積

僕自身の頭の中にあるものをどうやって共有するか、という課題に対する1つの解決策としてやってみました。

boardのCSではマニュアル対応を避けるため、マニュアル化はしていません。しかし、全て頭の中に覚えておくことは難しいので、僕の回答をデータベース化して、いつでも検索して参照できるようにしました。

もちろん、問い合わせ対応で使っているintercomそのもので過去の回答を検索してもいいのですが、日々の問い合わせ対応の効率化のため、検索性・運用効率を改善していけるように、自前で作っています。

そして現在では、CSチームの中で僕の回答例を改善したり、後から参照しそうなものは随時追加していくなど、僕の手を離れて自走しています。

作りっぱなしにならず、頻繁に改善を繰り返しているのはとても良いなあと思って見ています。

 

想定業務シーン・利用用途の共有

boardのような業務システムの場合、各メンバーがその業務そのものを当事者として実際にやることがあまりないという課題があります。

そのため、たとえば、
・なぜこのような仕様になっているのか
・どういう業務シーンを想定した仕様なのか

などがわからないことも多く、そうすると、なかなか相手の状況に応じた説明ができません。その改善のため、僕が毎日1記事ずつ、その仕様の背景や用途などを書いていくようにしました。

仕様はヘルプでわかるので、その裏側にある意図や想定業務に焦点を当てたコンテンツです。

僕がものすごく大変だったのですが(笑)、全部で60記事ほどになり、CSメンバーの理解促進にかなり役立ったように思います。

一度こういった形で書き出しておくといつでも参照できるので、問い合わせ内容からこれらの記事を思い出して確認したことで質問の意図がわかった、というケースもあるみたいで、そういうのは嬉しいですね。

ちなみに、開発メンバーにとってもこの課題は同じなので、一緒に読んでもらいました。

 

毎日の振り返り

2人目のCSメンバーが回答し始めた今年1月ごろから、サポート時間終了後の1時間を使って、CSチーム全体でその日の問い合わせ内容の振り返りを毎日やっています。

この中では、

  • 難しかった質問をあげて、解釈や回答が適切だったかの議論
  • 他の人が回答したものを確認して、ズレ・問題・不明点などを議論
  • 質問に関連した業務背景などを説明
  • 回答が不十分だったものは、翌朝に補足するために回答方針を検討

などをやっています。

毎日数十件を振り返り、かつ自分が回答しなかったものも含め振り返ることができるので、改善にとても効果的です。

また、この中で、僕の考えも繰り返し伝えられるので、boardとしての考え方・スタンスの共有レベルをより高めていくことができます。

この振り返りを半年ほど続けた頃には、2人目のCSメンバーもほぼ1人で回答できるようになり、振り返りの中で僕がコメントすることも減ってきたので、現在は僕は参加せず、CSチームだけでやっています。

ただ、振り返りの前までに、僕がその日のすべての問い合わせと回答を確認して、必要に応じてコメントするということは、現在でも継続してやっています。

 

まとめ

サポートの難しさは、背景が異なる人同士がやり取りするところにあると思っています。

会社・業界が異なれば、問い合わせの前提となる業務や習慣が異なります。立場(経営者・経理・営業など)が違えば視点も異なります。

こういったコミュニケーションギャップが生まれやすい状況の中で、かつ限られた情報から、相手がやりたいことを正確に把握して、わかりやすく説明していく必要があります。

boardのCSは、こういった部分をもっとも大事にしていて、このための銀の弾丸はなく、個々の本質的なスキル・知識を向上させていく以外に方法はないと思っているので、ひたすらこれに取り組んでいるという形です。

 

来年前半あたりまでに、3人目のCSメンバーを採用したいと考えています。現時点でまだ募集を出していませんが、こういったことに興味がある方がいましたら、ぜひTwitterコーポレートサイトからご連絡ください。