ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

board(SaaS)個別相談会の変遷

boardというSaaSで行っている個別相談会について、2015年にスタートした当初からこれまでの変遷を紹介したいと思います。

boardについて

中小企業・個人事業主をメインターゲットにしている、見積書・請求書などの書類作成、受発注管理、売上予測などを行うことができるサービスです。

弊社には営業などの外向けの活動を行うメンバーがおらず、board事業はエンジニアとサポートのみで構成されています。また、「10人の会社で1万社が利用するサービスを開発・運営する」というスタンスで運営しており、「人数に依存せず事業を成長させる」ということに取り組んでいます。

こういった背景を踏まえて、個別相談会がどのように変化していったか。個別相談会は、執筆時点(2023年1月23日時点)で757回実施しており、僕がすべて対応してきているので、最初から振り返ってみたいと思います。

個別相談会とは

個別相談会とは、サービスの説明や質疑の場として、複数社が集まる集合型のセミナーではなく、特定の会社・個人と個別の打ち合わせ形式で行っているものです。

「個別に日程を調整して打ち合わせする」というかたちではなく、あらかじめ公開されている1時間の予約枠に申し込んでもらうというスタイルで開催しています。

なお、現在はオンラインでのみ実施していますが、以前は弊社オフィスに「来社してもらう」というパターンもありました。ただ、当初から「こちらから訪問する」ということはやっていませんでした。

個別相談会のトピックは多岐にわたっていて、boardの機能自体の説明はもちろん、経理・会計・経営・営業・システムなどの背景を踏まえた質問事項も多くあります。

また、営業の場ではないので、合わないケースはそれを伝える等、可能な限り、ニュートラルな立場で対応するようにしています。

それ以外にも「なぜこんなに安いのか」「少人数でどうやって4000社以上のサポート対応ができるのか」「どうやって営業をせずに4000社以上も獲得できるのか」みたいなboardの運営に関してご質問を頂くことも意外とあります。まあ、謎ですよね・・・。

個別相談会の開始前後(2015年ごろ)

boardの正式リリースは2014年8月だったのですが、過去の社内のやり取りを振り返ったところ、「個別相談会」という名前が最初に出てきたのは2015年9月でした。

2015年9月24日に個別相談会の受付を開始し、2015年9月29日に最初の申込があったようです。
*記念すべき第1号の会社さんは今でもboardを使っていただいている上、この会社の方とはTwitterでも繋がっているので、「え、この会社さんが最初だったのか」とちょっとびっくりしました。

 

「あらかじめ用意した予約枠に申し込んでもらうかたちの個別相談会」というのは、知り合いの方から教えてもらったスタイルでした。

boardは非常に安価なサービスなので、個別に日程調整して訪問するという従来の営業的なスタイルだとコスト的に厳しいです。また、当時は、まだ自分もフルタイムで受託開発をやっており、そんな中で訪問は、現実的ではありませんでした。

それでも、2014年のサービスリリース当初は、あまり運営方針も定まっておらず、サービスの立ち上げを優先していたこともあり「説明に来てほしい」と言われた場合は対応していました。そのため、これまで何度か訪問したことはあるのですが、それでも、たぶん5回くらいではないかなと思います。

「もっと伸ばしていきたいけど、訪問している時間も取れない」という状況で困っていたところ、たまたま受託の仕事の中でお話した会社(お客さんではなく、その案件の中で使った外部のサービス)の方が、「うちも単価が安いサービスなので訪問すると厳しいから、個別相談会というかたちで来てもらっていますよ」という話を聞いて、真似させてもらうことにしました。

個別相談会開始当初の運営スタイルは以下のようなかたちでした。

  • 2回目にログインした際に個別相談会の案内を表示(当時、intercomというチャットサポートの仕組みを導入してたので、それを使って通知)
  • 最初は「ご来社いただく」のみでオンラインではやっていない
  • Typeformというアンケートサービスで申し込みフォームを作成。ただし予約枠の空き状況と連動できないので、申込後、メールで確定連絡をする運用

開始当初は、個別相談会の内容もまだ手探りの状況でした。基本的には、「boardの説明」と「質疑」という構成だったように思いますが、今のように説明内容・デモ内容は確立されておらず、毎回試行錯誤していたように記憶しています。

オンラインでの実施を開始(2016年ごろ)

個別相談会開始当初は来社していただく方法だけでしたが、やはりご足労をいただくのも申し訳ないので、来社かオンラインかを選択できるようにしました。

過去の申込メールを遡ってみたところ、最初のオンラインの申込は2016年4月だったようです。

Google Meetの前身であるGoogleハングアウトを使っていました。懐かしい。

この頃は、オンラインで申し込む方は非常に稀で、来社できない地方の方がほとんどだったように思います。

個別相談会申込みフォームの自社開発(2019年)

当初は、TypeFormというアンケートサービスを使って申込を受け付けていましたが、以下の課題感を感じていました。

  • 日程の確定は別途メールで行う必要があった
  • ユーザーの体験が一貫しない
  • オンラインでの実施時にGoogleハングアウトのURLを自動発行できない
  • boardアカウントと紐付けができない

ということで、boardのシステム内に申込フォームを自作し、そちらに移行しました。

これにより

  • 予約枠の空き状況と連動できるので、その後のメールのやりとりが不要で申込完了時点で確定できる
  • board内に組み込まれているため、同じユーザー体験で操作できる
  • 自動的にオンラインミーティング用のURLを発行できる
  • boardにログインした状態で申し込めば、会社名・氏名・メールアドレスなどが自動的に入り、入力の手間を軽減できる。またアカウントと紐づくようになっているため、どのくらい使った上での参加かなどの状況を事前に把握した上で説明できるようになった

というかたちで、かなり運用が改善されました。

予約1ヶ月待ちとその対策(2018年〜2022年ごろ)

2018年ごろから、個別相談会に予約できるのが1ヶ月以上先、という状況がずっと続いてしまっていました。

1ヶ月先だと、お試し期間も終わってしまっているし、「話を聞いてみよう」と思ってから聞けるのが1ヶ月先だと気持ちも冷めてしまいます。そのため、前日キャンセルや無断欠席の数がそこそこ多くなってしまい、かなり大きな課題でした。

この頃、個別相談会は週4回実施していたのですが、僕1人体制だった上、まだ僕自身がサポートにもメインで入っていた頃なので、これ以上は実施回数を増やせない状況でした。

そのため、個別相談会は各社1回までという制約を設けさせていただきました。

また、1時間枠の数を増やすのは難しかったものの、1時間も必要ないケースもそれなりにあったため、週2回、30分枠の予約枠を追加し、週6回開催にしてみました。

ただ、焼け石に水といいますか、あまり待ち時間の軽減効果はありませんでした・・・。

オンライン比率の上昇(2019年ごろ)

オンラインでの実施を始めた2016年当初は非常に稀でしたが、2018年ごろから徐々にオンラインでの申込が増えてきました。

以前は地方の方が大半でしたが、東京周辺でもオンラインでの参加が増えてきたので、オンラインで打ち合わせをするということが徐々に広まってきた様子がうかがえました。

そういった背景もあって、2019年ごろからは「今後はオンラインだけでもいいかも」というのを考え始めていました。

また、2019年には、当初2020年予定だった東京オリンピックに備え、「オリンピック期間中は人出も多いだろうから、この期間はオンラインのみでやってみよう」と思い、個別相談会の予約枠で「オンラインのみの回」という設定をできるようにして準備をしていました。

そうしたところ、2020年にコロナ禍が始まり、これ以降、完全にオンラインのみになりました。

東京オリンピックに備えて「オンラインのみ」の開催にする準備を進めてたのが、こういうかたちで活用されるとは・・・。

ちなみに、コロナ禍の中で、オフィスも小さいところに移転し、来社していただいて打ち合わせをするスペースがなくなってしまったので、今後はもうずっとオンラインのみの予定です。

合成音声によるチュートリアル動画(2021年)

前述の「個別相談会1ヶ月待ち問題」の改善策の1つとして、個別相談会で実施しているデモを「チュートリアル動画」というかたちで公開しました。少しずつ視聴できるように、テーマごとに1本3分前後の動画にしています。

実はそれまで動画をまったく使ってきていなかったのですが、その1つの理由として、メンテナンスコストがありました。

プロモーション目的のものではなくチュートリアル動画の場合、機能の追加・変更等に伴い、動画も随時変更していく必要があります。その際、都度、ナレーションを取り直すのが、コスト的にも手間的にもハードルが高く、なかなか踏み切れていませんでした。

そんな中、2020年後半に、ふと「最近の合成音声のクオリティだったら、そこそこいけるのでは」と思い試してみたところ、十分聴けるレベルだったので、2021年3月に合成音声によるナレーションというかたちで、チュートリアル動画を公開しました。
*ちなみに現在のチュートリアル動画の合成音声は、公開当初と別の仕組みを使っており、公開当初の合成音声は、クオリティ面ではもう少し劣ってました。

この結果、「個別相談会1ヶ月待ち問題」は軽減され、2〜3週間待ちが多くなりました。また、個別相談会の内容もデモは行わずに質疑だけというケースがかなり増えました。

「とりあえずデモを見たい」というケースが多かったんですね・・・。

個別相談会の中で全体通しのデモを実施しないという決断(2022年)

2022年8月から、個別相談会の中では「全体を通してのデモ」は行わないかたちにしました。

従来、個別相談会は「全体通しのデモが中心」と「デモは行わずに質疑のみ」の大きく2つの内容がありました。

個別相談会の冒頭でどちらが良いかを確認した上で進めていたのですが、1時間の使い方として、「全体通しのデモ」は非常にもったいないなと感じていました。

全体通しのデモを行うと、間に都度質問が入ることも多いため、全体で30〜40分ほどかかります。また、あまり事前情報をインプットせず、「とりあえず話を聞く」というスタンスで臨まれる方も多く、そうすると、質問もあまり踏み込んだものにならず、「こちらがデモして終わり」というようなケースも少なからずありました。

一方、質疑ベースの場合は、すでにしっかりお試ししているケースが多く、自社の状況を踏まえた質問や、実運用上で課題になるようなケースについてなど、かなり踏み込んだ内容になることが多いです。

後者の方が明らかに内容が濃く、その後うまくboardを活用できているケースが多いような印象もありました。

また、前述のチュートリアル動画を公開した後は、デモ希望のケースもかなり少なくなっていたという背景もありました。

そういった状況を踏まえて、現在は、「全体を通してのデモは行いませんので、デモをご覧になりたい方は事前にチュートリアル動画をご視聴いただき、具体的なご相談事項をご用意の上、ご参加ください」というかたちにしました。

もちろんこれはマイナス面もあると思っていて、「動画を見てください」だと後回しになってしまい、使ってもらえないケースは出てくるだろうなと思っています。また、個別相談会申込のハードルも上がります。

そのため、営業的に見るとあまり良い方法ではないと思うものの、boardのように非常に安いサービスの場合、サポート対応以外で手取り足取り導入支援をしていくことはできないため、個別相談会の内容の密度を上げることで、よりうまく活用していけるようにすることを優先しました。

「とりあえずデモを見たい」というケースがなくなったことにより、個別相談会の申込数は減り、1〜2週間以内には予約できることが多くなりました。また内容も充実したものになることが増え、個人的には良かったかなと思っています。

まとめ

たまに「boardはセルフサーブ型で提供しているサービス」という言い方をすることがあります。

非常に安いサービスなので、営業や導入支援はしておらず、代わりに、サポートのクオリティを上げたり、ヘルプを充実させたり、チュートリアル動画を用意するなど、ユーザーさんが自分で使っていけることを目指して、環境を整備していっています。

少人数で低コストのサービスを安定的に運用する方法としてこういったかたちにたどり着きました。

とはいえ、個別相談会のハードルをもっと下げた方が、より使ってもらえる可能性は高くなるのは間違いないので、いつか、そういう外向けの活動全般を担う人を採用できたら、また違うかたちに変わっていくのかなとは思います。