ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

「システムの画面」と「利用者の認知」のギャップを意識する

boardというSaaSの開発の中で、画面上の文言・配置・全体の流れ等をどのように考えて作っているか、という話です。

一般的なUIの話ではなく、サポートの経験から「認知とのギャップ」という視点で考えてたりするので、それについて書きたいと思います。

人は自分の知識・経験から物事を理解しようとする

人が新しいものを触る際、これまでの知識や経験などと照らし合わせながら物事を理解する傾向があるものだと思っています。

そのため、何か新しいものに触れる際、これまで似たような経験をしたことがあったり、知識があったりするものはスムーズ理解できます。逆に、それが少なかったり似たものがなければ、理解のハードルが高くなると思っています。

そのため、初めてシステムを触る際に、これまでの知識・経験とのギャップが小さければ小さいほど、スムーズに理解できる可能性が高くなります。

boardの画面を考える際、想定ユーザー層に対して、この「ギャップ」をなるべく小さくするよう心がけています。

もちろん、人それぞれ、これまでの経験やバックグラウンドは異なるので、全員に同じように伝わりやすい設計思想や表現はないと思っています。

また、そもそもシステムの設計思想自体が差別化要因になっているケースもあるので、ギャップをなくせば良いというものでもないです。それをやってしまうと、特徴のない平均点なシステムができあがってしまいます。

その上で、「仕組みや意味を伝える」という観点で、ギャップをできる限り自然に小さくしていくことを目指しています。

サポートで培った感覚を活かす

この際、サポートの経験が非常に効いてきます。

少し背景を書くと、boardは、もともと僕の1人プロジェクトとしてスタートしているので、開発はもちろん、有料契約数が1600社ほどまではサポートもほぼ1人でやっていました。

そのため相当な量のサポート対応をしてきていますし、現在でも、毎日すべての問い合わせに目を通しています。仕様や画面を考える際、どうしても自分の視点・解釈で物事を考えがちですが、サポートの経験は、引き出しを増やす良い経験になっています。

サポートの経験の中で、たとえば

  • 同じ単語でも意味・定義が異なるケース
  • 画面上に存在するのに、まったく目に入ってなさそうなケース
  • 想定していなかった解釈・捉え方をするケース

などを数多く見てきました。

サポートをやっていると、こういったコミュニケーションのギャップについて、すごく敏感になります。

うちのエンジニアが、サポートチーム内のやり取りの様子を見て「問い合わせ内容の解釈や、こちらから伝える内容など、こんなに細かく様々な視点で考えて調整しているんだ、ということを知ってびっくりした」と言ってたのですが、サポートチームではコミュニケーションのギャップを可能な限り小さくしていこうとしています。

「システムの画面はユーザーさんとのコミュニケーションの場」と考えているので、そういう細かいギャップに対して、アンテナを張るイメージです。

とはいえ、業種・業界・会社によって、用語や業務のやり方などは非常に多様なので、これを読んだ方が「全然わかりやすくないんだけど!」ということはあり得るわけです。また、ある人にとっての「わかりにくい」は、他の人にとってはまったく問題ないケースも多々あります。

SaaSというサービス形態である以上は個別対応はできないので、コントロール可能なギャップを小さくして、ギャップが小さい人たちを最大化することを目指しています。

ちなみにこのスタンスは、以前書いた システムとサポートの質の改善による問い合わせを減らすための取り組み(board - 2022年編) の取り組みともリンクします。

UIは頻繁に変えない

では、常に最適解を求めて繰り返し変更しているかというと、実は、boardではあまり頻繁に画面を変更しません。まったく変更しないわけではないですが、非常に緩やかに変化させています。

とくにシステムに不慣れな人ほど「画面が変わることはストレス」になってしまうことが多く、よほど使い勝手に致命的な問題がない限り、少しの改善だと、逆に「また変わって使いにくい」と捉えられてしまう恐れもあります。

また、ユーザーさんが社内用のマニュアルを作っているようなケースもあり、画面が変わるということは、そのマニュアルも差し替える必要があります。たとえば、過去に少し項目の位置を変更したところ「社内でマニュアルを作って、”この通り操作してください”と言っているので、画面が変わると困るから戻してほしい」というお問い合わせがあったこともあります。

これは少し極端な例ですが、変化に対してストレスになるケースは一定数あるので、「リリースしてからフィードバックをもとにどんどん変えていく」というスタンスは取っておらず、変化に関しては、慎重に検討した上で緩やかに進めていきます。

また、ある程度の影響が見込まれる場合は事前にアナウンスして進めるようにしています。たとえば、昨年、Webアクセシビリティー改善の取り組みの中で、数ヶ月に渡ってUIの変更が続くことがあったので、「また変わった」の連続にならないよう、下記のようなお知らせを事前に出していました。

the-board.jp

この辺のスタンスは、ユーザー層やシステムの特性にもよるので、これも「システムの画面はユーザーさんとのコミュニケーションの場」として、状況に合わせて考えていくのが良いかなと思っています。

サポートは改善の源泉

前述の通り、今でもすべての問い合わせに目を通しているのですが、わかりやすい直接的な要望など情報はもちろん、それ以外に「これをこう解釈した」「これで伝わらなかった」などのギャップに注目するようにしています。

また、大事な点として、サポートに寄せられる「声の大きい意見」に流されないようにする必要もあります。

「強く言ってくるケース」「"当然こうでしょ"という言い方」などの影響を受けがちです。ただ、「多くある視点の1つ」として捉えられるよう、問い合わせを受けて直接的・短期的に検討はせず、独立した時間軸で進めていくことで、ニュートラルに整理・検討できるようにしています。

実際のところどうなのか

では「boardは実際どうなの?」と言われると、どうなんでしょうね。

boardでは、人による営業やオンボーディングを一切やっておらず、受け身のサポートのみなのですが、それでもお試し登録から有料転換が20%前後あります。この数字はそれほど悪くないので、それなりにはスムーズに使えているのではないかなと思っています。

また、「使いやすい」「スムーズに使えた」と言ってもらえることも多いですし、先日の事例インタビューでも「実際に現場で使う人のことを本当に考えて工夫してるんだなと感じました」と言って頂くなど、こういう「ギャップ」については、それなりには埋められているように感じています。

もっとも、「まったく合わないな」と感じるくらい、ギャップがあるケースもありますが・・・。

boardは、一般的な請求書サービスと比べると少し仕組みの理解が必要になるので、とくに使い始めの段階でハードルの高さがあるのはたしかで、まだこれは解決できていません。

また、前述の通り緩やかに変化していくスタンスのため、まだまだ改善の余地はたくさんあります。そのため、今後も「ギャップ」に注目しながら継続的に改善していこうと思っています。