ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

自分のニーズを多くの人に使ってもらうサービスにする:小さな会社のSaaSの育て方(第2回)

小さな会社のSaaSの育て方」と題して、これまでboardでやってきたことを振り返っていく企画の第2回です。

 

第1回でも書いたように、boardは事業として計画して始めたものではなく、自分のニーズを形にしたところからスタートしました。ただ、自分に最適化しすぎてしまうと、フィットする範囲が狭まり、事業としての成長が難しくなる可能性があります。

ターゲットを絞れば絞るほど、効率的で自動化された仕組みは作りやすくなります。でも、それをやりすぎると「フィットする人」が限られてしまう。逆に、あまりに汎用的にしすぎると、誰にとっても70点の、ちょっと物足りないサービスになってしまいます。

平均点のサービスでは、小さな会社が選ばれることはまずありません。

だからこそ、自分のニーズから出発したとはいえ、ブレない軸を持ちながら、ある程度の汎用性も備えていく必要があります。

 

どうしても自分の視点に寄りがちで、自分として満足のいくものができたとしても、結果としてうまくいかないことは結構あるんですよね。サービスのドッグフーディングは非常に重要ですが、自分視点になりすぎないようなバランス感覚も不可欠です。

そう考えると、当時の自分に対して「よく、このくらいのバランスで留まったなあ」と言いたくなるくらい、独自性と事業性の“ちょうどいい”バランスを兼ね備えた形になった気がします。

受託開発の仕事で見てきた、さまざまな業務

受託開発を長くやっていたこともあって、多くの会社、多くの業界の業務に触れてきました。たとえ同じ業界でも、会社によってやり方はまったく違ったり、重視しているポイントが異なったりと、本当に多様でした。

この経験があったからこそ、「自分のやり方が最適なのはあくまで自分にとって」であって、同じような規模・業種の会社であっても課題やニーズは違うんだろうな、と想像することができました。これは、自分視点に偏りすぎないための「ブレーキ」として、役立ったと思っています。

主語を「自分」から「相手」に切り替える

仕様を考えるとき、「自分だったらこれは嬉しいか?」という視点は当然持ちつつ、それ以上に「受託の会社だったら嬉しいか?」「○○社(知り合いの会社)だったらどうだろう?」と、具体的な相手を思い浮かべながら考えるようにしていました。

この「主語を自分から他人に切り替える」習慣は、自分の視点に固執しすぎないためにも、すごく良かったと思っています。

ちなみに、これは今でもよくやっています。

最初から自動化しすぎない

汎用的なサービスである以上、利用シーンやニーズは本当にさまざまです。そんな中で「ワンクリックですべて完了します」みたいな自動化を追い求めすぎると、ぴったりハマる人には最高だけど、フィットしないケースも増えてしまいます。

昔よく「ワンクリックで〜」っていうキャッチコピーを見かけましたし、実際boardでも初期には「ワンクリックで○○できる」と書いていました。でも、あるとき「これは違うな」「ユーザーさんにとって誠実ではないな」と思って、ソースコードを「ワンクリック」で検索して、全部消したんですよね。

ある程度の仕組み化・自動化はしつつも、柔軟性や汎用性を犠牲にしすぎない。それにこだわりすぎない。このスタンスが結果的に、ちょうどいいバランスを生んでくれた気がします。

業務って、そんなに単純じゃないし、想像以上に多様だし、例外もあるし、思想もさまざまなんですよね。

そして自動化の度合いは、ニーズや時代に合わせて、またフィードバックを踏まえて、あとから少しずつ高めていくこともできます。

今の自分はどうしているか

自分はboard立ち上げから約4年間、ほぼ1人でサポートを担当してきました。今は実際の対応はCSチームに任せていますが、すべての問い合わせに目を通すのは続けています。

つまり、10年間で寄せられた、ほぼすべての問い合わせに触れてきているわけで、これは本当に大きな財産だと思っています。

この経験を通じて、さまざまな視点やニーズを知ることができ、自分の中の「引き出し」を増やすことができました。

仕様を考えるときには、よく問い合わせをくださる方や、boardの思想とギャップがある方、想定していなかった業種のユーザーさんなど、自分にはない視点を持った方々を思い浮かべながら「この方ならどう思うだろう」と想像して、仕様のバランスを調整しています。

また、仕様検討段階でCSチームに仕様を伝えて意見を聞くこともしており、やはり、サポートでの肌感覚を一番大事にしています。

振り返ってみて思うこと

「ユーザーヒアリングをすれば良かったのでは?」と思うかもしれませんが、当時はフルタイムで受託開発をやっていて、とてもそういった時間は取れませんでした。なので、なんとか自分で考えながら進めていた、という感じです。

最初のころは受託開発の経験が、途中からはサポート対応の経験が、それぞれ「自分以外のケース」を想像させてくれた。そのことがとても大きかったように思います。想像できないと、そもそも検討することができないので。

あと、自分は何か飛び抜けた能力があるわけではなく、「バランス感覚」でここまでやってきた人間なので、そこがうまく活きた部分だったのかなと感じています。

 

また、これを言うとよく「そんなことないでしょw」と言われるのですが、自分はあまり強い主義主張を持っていません。何か"実現したい世界”があるというよりは、自分や、似たような境遇の会社の課題を解決する手段を考える、というスタンスでやってきました。

そういった背景があったからこそ、「自分事」のサービスでありながら、自分に固執せず、ほどよく汎用的な仕組みに育てていけたのかもしれません。