ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

キャッチコピー「バックオフィス業務のために起業したのではない」と消えた「受託ビジネス特化型」:小さな会社のSaaSの育て方(第3回)

小さな会社のSaaSの育て方」と題して、これまでboardで取り組んできたことを振り返る連載の第3回目です。

今回は、boardのトップページにあるキャッチコピー「バックオフィス業務のために起業したのではない」についてお話しします。

このコピーは、パブリックベータの公開当初からずっと使い続けているものです。個人的にはとても気に入っているのですが、賛否もあるので、その背景や反応などを振り返ってみたいと思います。

当時の自分の心の叫び

起業して3年ほど経ち、受託開発の仕事を自分でこなしながら、バックオフィス業務も基本的には自分が担当していました。

案件一覧はExcelで管理し、見積書や請求書などもExcelで作成。さらに、毎月、案件一覧から売上やキャッシュフローの見込みを集計していました。

初期のキャッシュが少ない時期には少しでも売上を増やしたいという思いが強く、バックオフィス業務がとても負担に感じていました。

そんな気持ちを込めたのが、このキャッチコピーです。

実は暫定のはずだった

このキャッチコピーは、パブリックベータを公開する際に付けたものですが、当時広報を手伝ってくれていた方からは「うーん・・・」という微妙な反応で、「とりあえずベータ版はこれで出して、正式リリースまでに見直しましょう」と言われていました。

自分としては渾身のコピーだったのですがw

その後、いろいろと代案を考えたものの、これ以上にしっくりくるものがなく、結局そのまま使い続けることに。そして気づけば、もう10年が経ちました。

「わかる」「え、どういうこと?」と両極端の反応

このキャッチコピーは、非常に刺さる人とまったく刺さらない人で、反応が分かれます。

起業している経営者からは「わかる」と共感の声をいただく一方で、それ以外の方からは「よくわからない」「ふーん」といった反応も少なくありません。

マーケティングの仕事をしている知人からは、「これじゃ何のサービスか分からないし、最初に目に入る部分なのに、もったいないから変えたほうがいい」と言われたこともあります。

消えた「受託ビジネス特化型」というフレーズ

実はリリース当初、このコピーに加えて「受託ビジネス特化型」というフレーズもトップページで打ち出していました。

もともと自社の受託開発業務から始まり、そのビジネスモデルをターゲットに設計・開発していたので、それをストレートに伝える意図で使っていたのです。

当時はシステム開発系の会社に多く使っていただいており、初年度は全体の約7割を占めていました。

「受託の会社が自分事として作った」というストーリーとも相まって、「受託ビジネス特化型」というフレーズは分かりやすく、刺さっていたのだと思います。

その後、IT業界以外の会社にも少しずつ使っていただけるようになり、個別相談会などで「"受託ビジネス特化型"というのがよくわからなかった」という声を聞くようになりました。

おそらくIT業界では、受託とそうでないものがあるからそういう言い方をするのだと思いますが、うちの業界ではこのビジネスモデルしかないので、わざわざ“受託”とは言わないんです。

なるほど・・・。そういった声を受けて、「受託ビジネス特化型」という表現を削除し、より多くの業界の方に届くよう、表現を見直していくことになりました。

※コミットログを見ると、ベータリリースから約2年後の2016年3月に「受託ビジネス特化型というキーワードをやめる」という記録が残っていました。

ちなみに、「受託ビジネス」にフィットする仕組みであることは間違いないので、今でもそれをどう表現して伝えるかは悩みどころです。

振り返っての考察

「バックオフィス業務のために起業したのではない」というキャッチコピーが「何のサービスかわからない」と言われるのは、正直その通りだと思います。

ただ一方で、このコピーはboardの生い立ちそのものを語っており、ストーリーの一部でもあります。これに強く共感してくれた方がSNSでシェアしてくれることもたびたびありました。無名の小さな会社にとって、これは本当にありがたいことでした。

boardは、基本的に広告などのプロモーションを行わずにここまでやってきました。

※実は初期のころは試行錯誤してて少しだけ広告を出していた時期もありましたし、今後はまた広告を活用する可能性はあります。

広告なしで小さな会社のサービスを知ってもらうのは非常に難しく、SNSにとても助けられました。

そう考えると、このキャッチコピーは、奇をてらったものではないけれど印象に残り、ストーリーテラーとしても機能していたと思います。誰にでもそれなりに伝わるコピーではないですが、一部の人に深く刺さるコピーです。

小さな会社の無名なサービスにとって「誰かの心に響く」ことはとても大切で、結果論ではありますが、このキャッチコピーで良かったのではないかと感じています。

そして、これが一部の人に刺さったことが、後のブランディングの方向性にも影響を与えたような気がしています。

また、「受託ビジネス特化型」については、あえて外したことが広がりに繋がったように感じています。もしそのままだったら、今ほど広がっていなかったかもしれません。