「小さな会社のSaaSの育て方」と題して、boardの10年間を振り返る連載の第7回です。
今回は「freee連携機能」について取り上げます。
初代のfreee連携機能は、2014年12月にリリースしました。boardの正式リリースは同年8月だったため、かなり早い段階でfreeeとのAPI連携を実装したことになります。
今でこそ、boardのようなサービスがfreeeと連携するのは自然なことに思えるかもしれませんが、振り返ってみると、このタイミングでの実装はboardにとって非常に重要なポイントだったと感じています。
なぜ最初に弥生会計ではなくfreeeを選んだのか
自分自身の経験として、新卒で入社した会社で「すべての取引は最終的に仕訳に落ちる」と教わったことから、業務システムを作る以上、最初から会計連携を意識していました。
2014年当時の中小企業向け会計ソフト市場を考えると、まずは弥生会計向けCSV出力に対応するのが自然な流れだったと思いますが、最初に対応したのはfreeeでした。
あるバックオフィス系の知人からは、「2014年のfreeeって、まだ仕訳プレビューもなかったし、当時使っていたのはかなりのアーリーアダプターだけだったはず。なぜそんな時期から・・・」と驚かれたほどです。
正直なところ、それほど深く考えていたわけではなく、
- 「これからはCSVじゃなくてAPI連携でしょ!」という思い
- 手元に弥生会計や勘定奉行がなく、すぐに試せなかった
- freeeはAPIドキュメントが公開されていて取り組みやすかった
といった理由が主でした。
ただ、当時はSaaS同士のAPI連携がまだまだ一般的ではなく、「勝手にAPIで接続して良いのだろうか」という迷いはありました。freeeに知り合いもおらず、直接問い合わせていいのかも分からない状態でした。
そんなとき、freeeがリリース前(開発中)だった頃に、代表の佐々木さんにお会いしたことがあったのをふと思い出し、名刺を探し出して、API連携しても問題ないかメールを送ったところ、快諾をいただきました。こうして、freee連携機能の実装に踏み切ることができたのです。
*今思えば、代表に直接メールするより、普通に問い合わせフォームから連絡する方がずっとハードル低いと思いますけどね・・・。
余談ですが、MFクラウド会計・弥生会計・勘定奉行への対応は、その約2年後の2016年12月。むしろこちらの方が遅すぎました。
早期にfreee連携機能を持った意義
このように、深く考えたわけでもなくスタートしたfreee連携機能でしたが、結果として大きな意味を持つことになりました。
2014年のリリース直後からしばらくは、boardの主なユーザーはIT関連企業や、クラウドサービスを早期に導入していた受託系ビジネスの方々でした。
そこから徐々にユーザー層が広がっていく中で、「クラウド会計に強い税理士・経理の方々」が新たなチャネルの1つとなったように感じています。
freeeを利用していた税理士・経理の方々が、boardのfreee連携機能を評価してくれたのです。
また、早くからクラウド会計を活用していた税理士・経理の方々の中にはTwitterを利用している方も多く、そうした方々がboardをツイートしてくださったことで、私たち単体では届かなかった層にも認知が広がりました。
*当時はそういう方々とまったく繋がりがなかったので、全然知らないところでboardを紹介してくれていたことを後から知って、とても嬉しかったのを覚えています。
当時の会計ソフトのシェアなどではなく「APIが公開されていたから」というシンプルな理由で最初に取り組んだ連携が、結果としてboardを多くの方に知っていただくきっかけとなったのです。
営業から会計までの業務をつなぐ
boardのトップページに掲載している下図は、現在のboardの立ち位置を示したものですが、これは2014年当初から構想として描けていたわけではありません。
前述の通り、「業務システムのデータは最終的に会計へ流れるもの」と教わってきたこともあり、「boardで作成した請求・支払データを会計に流す」ことは最初から念頭にありました。
boardは、見積書や請求書を単体で作成するのではなく、「案件」という単位で各種書類を業務フローに沿って管理していく設計思想になっています。
これに会計が加わり、営業から会計までの業務データが一気通貫で流れるようになったことで、boardの価値が明確になり、自社サービスの立ち位置を認識することができました。
結果的に、freeeとの連携は、boardの認知拡大だけでなく、サービスの価値や方向性をはっきりさせる契機にもなったのです。
振り返っての考察
2014年12月のfreee連携機能リリース時点では、正式リリースからわずか4ヶ月しか経っておらず、まだまだ機能が足りていない状況でした。
そんな中でfreee連携の開発を優先したことは、結果としてboardの成長に大きく寄与しました。
10年以上SaaSを運営してきて、「この機能で急成長した!」というような劇的な出来事は実際にはなく、どの機能もそれぞれ大事な役割を果たしてきたと思います。ですが、その中でもこのfreee連携機能は、単なる機能追加以上の意義を持っていたと感じます。
また、この機能があったからこそ、多くの税理士やバックオフィスの方々と繋がることができた点も、大きな財産です。
そういった意味で、自分にとってfreee連携機能は「単なる1機能」を超えた存在です。
あのとき、佐々木さんにメールを送り、快く了承いただいたことには本当に感謝しています。
freeeが当初からオープンな姿勢を貫いていたからこそ、今のようなエコシステムが築かれていて、boardもそれによって成長させてもらいました。