「小さな会社のSaaSの育て方」と題して、boardの10年間を振り返る連載の第9回です。
サービスを運営していると、注目を集めるような機能をリリースして、一気にユーザー数が伸びることを夢見てしまいます。しかし、実際にはそのような急成長は稀であり、むしろ地道な改善やユーザーとのコミュニケーションのほうが重要だと考えています。
boardでは、長らく「派手な機能・注目を集める機能よりも地道な改善を」というスタンスを大切にしてきました。今回は、その点についてお話ししたいと思います。
実は初期のころは少し期待していた
2014年にboardをリリースした当初は、大きめの機能を追加するたびに、それがユーザー数増加のきっかけになることを少なからず期待していました。
しかし、残念ながらそういったことは一度も起きませんでした。
今思えば当然のことですが、無名の小さな会社のサービスが話題になることは、そう簡単ではありません。
業務システムのスイッチングコストとタイミング
業務システムの切り替えには労力がかかります。小規模な会社であれば、その労力が極端に高いというわけではないものの、そのシステムを使って日々の業務を回している以上、それほど気軽に行えるものでもありません。
また、バックオフィス業務の改善には課題感があっても、それが常に優先されるとは限らず、「タイミング」というものがあります。
「期が変わるタイミングで導入したい」という声もよく聞きますし、「課題はあるけれど他の課題と比べると後回しになる」というケースも多いでしょう。
つまり、業務システムの導入や切り替えには、「タイミング」という要素が大きく影響します。そしてそれは、機能追加のタイミングとは一致しないことがほとんどです。
実際、既存のユーザーさんですら、新しい機能をリリースしてもすぐには使わず、「今は忙しいから後で使ってみる」となることがよくあります。
このことに気づいてからは、機能リリース後の即時的な反応をあまり気にしないようになりました。
地道な改善の大切さ
ユーザーさんから要望をいただいた機能については、リリース後にはその問い合わせに返信するかたちで連絡をするようにしています(ベストエフォートではありますが)。
その際、ユーザーさんから返信をいただくこともあり、直接反応を見る機会があります。そうしたやり取りの中で感じるのは、地味で細かい改善が思いのほか喜ばれるということです。
ユーザーさんにとってのメリットは、必ずしも対応の規模で決まるものではありません。
もちろん、サービス初期のように必要な機能がまだ十分でない段階では、大きめの機能に対するニーズも多くあります。しかし、ある程度機能がそろってきた段階では、大小を問わずユーザーさんの課題に寄り添う改善を意識し、バランスを取るようにしてきました。
振り返っての考察
以下は、有料導入社数が5000社に到達するまでの推移を示したグラフです。初期のころは非常に緩やかな成長だったことがわかります。
このような状況だったため、「話題になるような機能があれば」と思った時期もありましたが、無名の小さな会社のサービスが急に伸びるようなことはなかなかありません。ですので、早い段階で「それを期待してはいけない」と認識できたのは、振り返れば非常に大きなポイントだったと思います。
もし仮に、一度でも話題になるような機能があったとしたら、その後も「話題性」を追い求めてしまっていたかもしれません。
*起業した初期のころ(boardを開発する何年も前)、受託開発の顧客の社長さんから「会社の経営やモチベーションを何かしらのイベントに頼っていると、常に打ち上げ花火を用意しないといけないことになって辛くなるよ」と言われたことがあるのを思い出しました。
また、有料導入社数が1000社に達するくらいまでは、自分一人でサポート対応をしていました。日々ユーザーさんと直接やり取りしていると、目の前のユーザーさんの役に立つ改善をしていこうという気持ちが自然と強くなります。
これは後付けの解釈になりますが、現場の声を拾いながら必要な改善や機能追加を続けた結果、サービスとしての実力を高めることができたのだと思います。
長い目で見れば、必要な機能はいずれそろいます。そのため、地味な改善を続けていくことが、結果的にサービスの成長に繋がったのではないかと考えています。