ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

boardのCSで大事にしているスキル

boardはβリリースから約4年ほどは、ほぼ僕が一人でサポートをやってきました。

昨年前半にCS専任のメンバーが入り、一年ほどかけてスキル移管をしつつ、徐々に体制をシフトさせていっているのですが、その過程で、boardのサポートで最も重要なスキル・大事にしているスキルが、自分の中で明確になってきたので書いてみたいと思います。

 

boardのサポートについて

boardは、見積書・請求書作成を中心とした業務管理・経営管理のB2BのSaaSです。

そのため、問い合わせは主に「○○という業務をやろうとしているけどどうすればいいですか」「○○という機能はありますか」などの使い方・機能の有無や、業務に合わせてどういった使い方をしたらよいか、といった質問が多いです。

サポートはチャットのみで、電話でのサポートはやっていません。
*チャットはintercomというサービスを使っています。

現在、有料導入社数は約1900社で、それをCS二人体制で余裕を持って運用できています。

また、サポートの回答時間の中央値を公開していて、2015年11月以降、10分以下を継続しています。

ユーザさんからは、「今回もさすがです。短期間で解決に辿り着けました。最高のサポートでした!」「こんな情報が少ない質問で的確に切り分けして頂いて、ありがとうございます!」などのようなコメントを頂くなど、それなりに評価して頂いていると思っています。

あとはこんなことを言って頂いていたりします。

どちらのコメントも開発者としてもとても嬉しいのですが、CSとしては 「サポートの的確さ」というのはとても嬉しいですね。

 

boardのサポートの一つの強みは、やはり僕自身がやっていたことは大きく、同時に大きな課題でもあります。

僕の場合、経営・会計・経理周りがわかるし、メイン開発者なのでシステムを隅から隅まで知っているし、長く業務システムの受託・コンサルをやってきているので、多くの業務・企業を見てきて引き出しも多いので、相手の状況を想像しやすく、わりとどんな質問がきてもすぐに対応できて、たぶんそれなりのクオリティの回答ができています。

ただ、これを他のメンバーが一人で同じことをやるのは難しいのは重々承知で、とはいえ、サポート品質を大きく落とすわけにはいかないので、引き継ぐにあたって、何を大事にするか、というのをずっと考えてきました。

boardのサポートは能動的なアクションせず受け身だし、ユーザの行動は分析していないし、KPIはないし、ハイタッチなどの分類もしていないので、おおよそ最近のカスタマーサクセスとは異なる方向性に力を入れているのですが、サポートの本質はコミュニケーションと課題解決だと思うので、「一回のやり取りで一発で解決すること」を理想として、ここのスキルアップに全力を注いでいます。

 

サポートにおけるコミュニケーションの難しさ

コミュニケーションはほんとに難しいと思っています。

口頭で話す際は、その場の雰囲気だったり流れだったり相手に関する知識だったり、様々な情報を元に、コミュニケーションギャップが生まれないように補完しながら話していると思うのですが、チャットサポートというテキストコミュニケーションだと、それらの情報が抜け落ちてしまい、コミュニケーションの曖昧さがより顕在化するんじゃないかなあという気がしています。

特にサポートにおいて難しいポイントがいくつかあります。

相手の基礎情報の不足

普段一緒に仕事をしているメンバーでもコミュニケーションギャップは生まれてしまうのに、サポートの場合、一度も会ったこともないケースが大半です。
しかも、相手がどういう立場・役割なのか、どういう業種なのか、システムに慣れているのかそうでないのかなど、基礎的な情報が全く無い中で対応します。

わからないことを質問する難しさ

自分自身もそうですが、質問する側の立場からすると、「わからないことを質問する」というのはとても難しいことだなと思います。

そのため、質問の文面だけでは状況を把握できないというケースもよくあります。

複数の選択肢があるケース

例えばboardの場合、「発注書」というのは受注・発注の両方にあります。
受注側:顧客から自社にもらう発注書で、こちらで用意し、捺印して返送してもらうためのもの
発注側:自社から発注先へ発行する発注書

そのため、「発注書について質問です」と言われると、「どっちの発注書か」というのがわからないと回答できないのですが、ユーザさんの立場からすると、そもそも2つあることを知らないかもしれないし、知っていたとしても、普通はなかなかそこまで考慮して質問するのは難しい気がします。

「担当者」も「自社の担当者」や「顧客の担当者」などがあるので同じですね。

このように、1つの単語から複数の選択肢があり得てしまうケースもよくあります。

board上に存在しない用語

異なる用語でも同じ意味を示すものは多くあり、業務上使われる用語は会社や業界によって様々です。

質問を頂く際、やはり普段使っている用語を使うことが多く、board上に存在せず、かつ、こちらとしては普段使わない用語だったりすると、board上の何のことを指しているのかわからないことがあります。

直接関係ない情報

ユーザさんは仕様を熟知しているわけではないので、「関係がない情報」が多く含まれていることがあります。

ただ、読み手(CS)側からすると意外とそれらに惑わされがちです。

本来の目的が抜けてしまっている質問

色々と試行錯誤をして頂いた結果、やはりわからずにお問い合わせ頂くケースでよくあるのが、本来の目的(やりたいこと)が抜けてしまっていて、試行錯誤した最後の段階の部分の質問だけが書かれていることがあります。

この場合、質問に対してだけ答えると、ユーザさんが本当にやりたいことではないということになってしまいます。

あの「顧客が本当に必要だったもの」の図でも、「顧客が最初に説明していること」自体が「本当に必要だったなもの」とズレていますが、サポートでも、これはよく起こることだなと思っています。

 

これらの難しさに対応するスキル

前述のような「難しさ」を適切に扱えないとどうなるか。

ユーザさんから見ると、「解決までに時間がかかる」「何度もやり取りが発生してしまう」「質問の意図が伝わらずイライラ」という、よくあるサポートに対する不満になってしまいます。

ユーザ体験というのはシステムだけのことではなく、サポートもboardの大事なユーザ体験の一つだと思っています。

そういう点で、サポートにおけるコミュニケーションの難しさをうまく扱えるスキルがとても重要だと思っています。

これまでのブログにも何度か書いていますが、小さい会社なので全方位に力を入れるだけのリソースはありません。各分野で何か1つ、強みになるレベルに引き上げるまで集中してやるというスタンスでやっていて、サポートの場合はこのコミュニケーションの部分です。

サポートで必要なコミュニケーションスキルというのは、うまく話すこととかではなく、「適切に理解して簡潔に説明する」ということだと思っています。

でも、これがとても難しく・・・。

ポイントは読解力・想像力・文章力だと思っていて、それらの向上に取り組んでいます。

読解力と想像力

「サポートにおけるコミュニケーションの難しさ」の中で書いたとおり、質問者がやりたいことや質問の意図を、文面から正確に把握するというのはとても難しいです。

とはいえ、何度も確認していたら、ユーザさんからしたら面倒ですよね。

そのため、「いかにして限られた情報から質問の意図や本質を把握するか」というのが、スムーズで居心地の良いサポートには不可欠だと思っています。

これには、例えば、以下のようなものの組み合わせが必要になります。
・文章の読解力そのもの
・書かれている情報の要否の切り分け
・可能な限り集められる情報
・相手の状況の「想像」するための想像力。それを可能にする業務や機能の知識
・エスパー(行間以上のことに気づく必要があるケースもある)

エスパーは別として、それ以外については、CSメンバーの育成の中で、「なぜこう解釈したのか」「なぜこういう切り分けをしたのか」ということを論理的に分解しながら解説しています。

これには純粋な「読解力」は不可欠なので、まずは日本語力の強化がベースになります。

その上で、可能な限りの情報を集めて、想像する上で必要な情報を補足していきます。

例えば、以下のようなことをやっています。
・利用開始時期やログイン回数から、使い始めなのか、使い慣れているのか
・コーポレートサイトを探して、業種や規模を確認
・どういった立場なのか(役員だとコーポレートサイトに掲載されているので判断ができる)
・ユーザ権限(管理者なのか担当者なのか)
・質問の内容から、経営者・経理・営業などの職種を想像
・質問の仕方でシステムを使うことに慣れてそうか

質問文の読解に加えて、上記のような情報を合わせて、相手の状況や質問の意図の把握をしていきます。

また、相手の状況を想像する力は、やはり業務的な背景や商習慣の引き出しがものを言います。
これは、時間をかけて増やしていくしかないので、僕が日々の問い合わせを題材にCSメンバーに説明したり、「boardはなぜこういった仕様か、どういう業務を想定しているのか」ということを毎日1トピックずつ書いて共有するなどして伝えています。

わかりやすく伝える文章力

これは自分自身にも言えることなのですが、どうしても色々詰め込みすぎたり、余計な言い回しが多くなって、文章が冗長になりがちです。

なるべく簡潔に無駄な情報がなく、わかりやすい文章を書いていくことで、すっと読むことができます。

特にサポートの場合、読み手に考えさせてしまうような文章はダメだと思っているので、そういった文章力を上げる取り組みをしています。

日々の回答の際は、僕がCSメンバーの文章を校正していたのですが、より改善するため、board初期の頃に広報を手伝ってくれていた方に、「広報の視点でサポートの文章を改善する」という取り組みを月一でやってみています。
*これはとても良い効果があったので、また別途書ければと。

コミュニケーションギャップに気づく仕掛け

どれだけ気をつけても、コミュニケーションギャップは必ず生まれてしまうと思っています。

そのため、「それに気づくことができる仕掛け」を回答の中に入れることがあります。

簡単な例で、例えば「一覧で○○(項目名)を出力することはできますか」という質問があります。

これは、以下のいずれのケースもあり得ます。
・CSVに出力したい(一覧画面ではCSV出力ができるので、"出力"という単語からCSVと解釈)
・一覧に表示したい(画面表示のことを出力という方もいます)

この質問の場合、対象の項目は画面表示はできるが、CSVには含まれない項目でした。

「○○を一覧画面に表示したいといことですか。それともCSVに出力したいということですか」と確認することもできますが、このような質問の場合、大半は「CSV出力」です。そのため、「CSV出力」前提で回答してもほとんどの場合は問題ありませんし、ほとんどのユーザさんからすると、その方が確認のやり取りなしで一発で解決します。

ただ、まれに「画面に表示」のケースもあるので、CSV前提で回答すると、画面表示はできるのに「対応していない」と思われて、認識のズレが発生してしまい、その方にとっては、できることなのに、それを知る機会が失われてしまいます。

そのため、質問の言葉をそのまま使って、「○○を出力することには対応していません」と回答するのではなく、「○○をCSVに出力することには対応していません」という形で情報を補完して回答します。

そうすると、「CSVではなく画面のことです」と質問者が気づくことができます。


明らかに確認が必要なケースはもちろん確認を挟むのですが、このように「ほとんどのケースではこっち」という場合、このように、質問の文面上は情報が足りないことはよくあって、それを補完しつつ回答すると、ズレがある場合に気づくきっかけになります。

コミュニケーションのズレを防ぐ努力はしますが、事前に100%防ぐことはできないので、このような感じで、ズレに気づけるちょっとした仕掛けを入れることで、少しでもズレを拾えるようにしています。

 

まとめ

サポートというのは本質的にはコミュニケーションだし、コミュニケーションはとにかく難しいので、boardのサポートは、ひたすらそのレベル向上を最優先にしています。というか、それしか取り組んでいません。


現在CSメンバーは2名いて、1名は昨年3月、もう1名は昨年11月に入社し(フルタイムは12月から)、今年2月からはどちらかが休みでない限りは、僕は必要な場合のみフォローに入る程度で、基本的には二人で回す体制にシフトしています。

「少ない人数で回す」「10分で回答する」ためには回答の効率化が必要ですが、マニュアル化して機械的な効率化を図ることはやっていません。むしろ逆で、よくある質問だと定型的な回答になりがちなのですが、マニュアル的な対応をしたことで、「間違ってはいないけど微妙な会話のニュアンスのズレ・違和感がある」というのが一番ダメだと思っていて、CSメンバーがこれをやると、僕が一番不機嫌になるパターンです。

そういった効率化ではなく、相手の意図を把握すること、素早く適切な説明ができること。これによって、やり取りの回数を減らすことで、少ない人数で素早い回答を実現するということを目指してやっています。

これは、CSに限らず、経営でも開発でもマーケティングでも共通した自分のスタンスですが、「急がば回れ」だと思っています。

 

今回は、こういうことを目指してやっているという内容でしたが、このために1年ほどかけて色々と取り組んできたので、 具体的にどんなことをやってきたかについては、また別途書きたいと思います。