ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

10人の会社で1万社が使うサービスを目指す

boardの現在の有料登録数は1700社なので、1万社はまだまだ遠いですが、最近よく「10人で1万社」という言い方をしています。

数値目標を立ててそれを目指してやっていくというのは苦手だし好きではなく、普段から
・会社としては、みんなの賞与を出せるレベルで利益を出す
・boardとしては、前年レベルの成長率は維持する
くらいしか考えていません。

5年ほど前から「売上の座布団を増やしていくためにストック売上を増やす」と言ってきましたが、これも具体的な数値目標や期限は設けず、毎年期末のまとめの際に、社内のみんなに対して「早く50%くらいまで行きたいね〜」「今年は○%まで増えた」という話をするだけでした。

「10人で1万社」というのも、「いつまでに」というのはないし、成長や売上のための目標というよりは、「営業・運用に人手をかけない仕組みを作っていくため」の目標みたいな位置づけです。

人手がかかるやり方をしていたら10人の会社で1万社を獲得し運用するのは到底無理なので、営業においても、システム運用においても、とにかく人手がかからない仕組みを目指しています。

ちなみに、役員2人以外は残業することはほぼないので、もちろんこの状態を維持しつつ。

 

なぜ10人?

サービス以前に、うちの会社は、規模を大きくしない(10人前後まで)という方針でやっています。

もちろん小さい会社でできることというのは限られてきますが、小さい会社でないとできないこともあるし、小さい会社でも多くの人に使ってもらえる仕組みを作れるのがシステムの良いところだなと思っています。特にSaaSは、その傾向が強い印象です。

 

現在の状況

うちは自分を入れて8人の会社で、boardにフルタイムで関わっているのは4人、総務兼任が1名。一人は最近入社したばかりなので、この1年はフルタイム3人 + 総務兼任1名でやってきました。
フルタイムの3人は、エンジニアが1名、CSが1名、あとは僕がプロダクトマネージャ・開発・CS・マーケティングなどを担当しています。11月に入社したのはCSメンバーなのでCSが2人体制になります。

また、総務が個別相談会のデモやテストなどを兼任していて、残りの3名は受託がメインで、たまに手が空いた時にboardの開発を手伝ってもらっていたりします。

 

人手をかけないものとかけるもの

小さい会社では常に人手は足りないし、分野的にカバーできる範囲は限られるので、ある程度思い切った選択が必要だと思っています。

うちの場合は、営業メンバーはいないし、広告運用の経験があるメンバーもいないので、これらはやらない前提で考えるようにしています。

また、そもそもboardの価格帯(月額980円〜5980円)のサービスを人が営業して売っては利益が出ないし、広告もペイしないので、短期的に一気に伸ばす場合を除いては、営業・広告に頼らず売っていかないといけない価格帯なのかなと思っています。

一方、CSには相当力を入れています。
2015年3月から、サポートの回答時間の実績値を公開していて、ここ3年ほどは回答時間の中央値は10分を切っています。

また、他にやる人がいなかったというのもありますが、サービスリリースして3年以上も社長がCSをほぼ一人でやり続けていて、かつ、自分の中では、自分が持っている経営・開発タスクよりも優先度が高い位置づけになっていました。

これは、営業・広告にコストをかけて新規獲得を増やすことができないので、一度会員登録してくれた人をできるだけサポートして使ってもらえるようにしたいということもあり、サポートに力を入れてきました。

 

CSは労働集約型

しかし、サポートは完全に労働集約型の仕事です。

導入社数が増えれば比例して問い合わせも増えてくるので、CS体制も増やしていく必要があります。そのため少ない人数で多くのユーザを抱えるサービスを運営していくためには、ここが大きな課題になります。

例えばチャットボットを導入して、ある程度自動化することも選択肢としてはあるとは思います。しかし、boardのサポートは業務的に込み入った話も多く、わりと人間が頭を使って回答しなければいけないものがたくさんあるため、現時点で、それらをチャットボットで解決できるイメージは湧きません。

サポートもサービス全体のUXの一つと捉えています。サポートとのやり取りでどういう体験をするかというのは極めて重要な位置づけで、少なくとも現時点では、人間がやるべきと考えています。

そのため、以下のようなことを継続的に取り組んでいます。

問い合わせを減らす対策

・問い合わせが多い機能を1〜2週間に1つずつ改善していく
・問い合わせ内容から随時ヘルプを改善
・ヘルプの検索のしやすさの改善
・CSの回答の中で、その場の解決だけを目指した回答をするのではなく、仕組みを理解してもらうための説明をする(将来的な問い合わせを減らす)

回答効率と手離れの良さの改善

・僕のサポートノウハウの整理とすぐにそれを検索できる社内用の仕組みの構築
・マニュアル化ではなく、個人の対応力の向上(業務理解、読解力、文章力、説明力などの強化)
・毎日、質問と回答のチェック・フィードバック・改善を繰り返し、よりやり取り回数を減らすことができる、わかりやすい回答にしていくための取り組み

 

問い合わせ数という点では、特に「問い合わせが多い箇所の改善」は効果的でした。問い合わせが多いということは、わかりにくかったり、躓きやすいところなので、そこを改善していくことで、それ関連の問い合わせが劇的に減りました。

その結果、ここ1年で有料導入社数が700社以上増えましたが、問い合わせ数・返信数は横ばいです。

現在の問い合わせ量だと、CSはほぼ一人で対応できていますが、新しく入ったメンバーも含め、2人体制で4〜5000社くらいまではいけそうな気がしています。

 

バグ・障害の少なさとリリース後の手離れの良さ

バグや障害があると問い合わせが増えてしまいます。そのため、少人数で回していくためには、バグや障害の少なさというのはかなり重要なポイントと考えています。

また、仕様の適切さや完成度もとても重要で、機能追加しても、仕様が中途半端だったり業務とフィットしていなければ問い合わせが増えますし、急遽、当初予定になかった改修が必要になります。これはプロダクトマネージャとしての質ですね。

質の良さは、問い合わせを減らす効果があり、またリリース後の手離れが良く、スムーズに次の開発に入れるので、開発サイクル全体としても効率的になります。

そのため、自分の中では、感覚的には受託の時の2〜3倍程度のコストを品質管理にかけていて、それが結果的に、トータルでのコスト低減や安定したペースでの機能追加・改善に繋がっていると思っています。

boardの場合、少し状況が特殊で、リリース後3年以上、ほとんどの期間でほぼ僕一人で開発・CSをやっていたので、バグを出すと全て自分に返ってきます。

新しい機能をリリースしてバグがあったり既存機能に影響があったりすると、問い合わせが立て続きます。自分でその問い合わせ対応をしないといけないので、その結果修正の時間も取れないという、完全に負のスパイラルに入り込みます。バグ1つの重みがとても重かったのです。

元々受託においても、お客さんから「バグや手戻りがとても少ない」という評価を頂くことが多かったのですが、それよりも遥かに高いレベルのものを自分自身に求め、いかにしてバグを未然に潰せるか、そのプロセスと品質管理の仕組みを改善していきました。

その結果、リリース頻度(年40回前後)と規模を考えると、仕様面での後悔はとても少ないですし、バグもかなり少なく抑えられているのではないかと思っています。ユーザさんからも「他のサービスと比較検討していたけど、品質の良さが決めての一つ」と言われることもあったりします。

もっとも、全体としてはそういう傾向というだけであって、バグは当然あるし、いちユーザから見ると、バグを引いた方も当然いるわけで、そういう人からすると、これを読んで「いや、俺バグ引いたし」と思うと思うので、あまり大きなことは言えませんが・・・。

 

SREやDR

「この価格帯のサービスで、この規模の会社でDRやるの?」と言われたりするのですが、最近、DRやSREに対する取り組みを始めています。

ユーザさんにとっては、当然安定してサービスが利用できることに越したことはありません。

また、うちとしてもこれまで書いてきたように、少ない人数で回していくためには、障害の少なさというのは非常に重要になってくるので、ここは今以上に強化していきたい分野です。

これらの強化はこれから本格的にスタートしたところで、今後、継続的に取り組んでいく予定です。

 

完成度の高さやユーザ体験という差別化

小さい会社は、知名度やリソース(人・金)では戦えません。

システムの完成度・質(仕様的な意味も含めたトータルの質)・ユーザ体験が生命線で、そのために、アプリケーションそのものはもちろん、運用やCSなどを磨き続けていき、そういう差別化を目指しています。

サービスを比較検討する際、機能の○×や知名度は、とてもわかりやすい指標なんですよね。でも、小さい会社はその土俵では戦えないので、程よくターゲットを絞りつつ、その中で圧倒的な完成度に持っていく。

昨年、別にboardのパフォーマンスは悪いわけではないのに、さらなるパフォーマンスの向上の取り組みをしていたのも、「速さは最大のUX」だと思っているので、「ユーザ体験」をより向上させるための投資でした。そして、これは今後も継続してやっていきます。

 

たぶん、今後boardが進む方向はこういう方向なんだろうなと思っています。

とてもぼやっとしていてわかりにくいですが、引き続き地味にじっくり、開発もCSも磨き続けていきたいと思います。

 

そしてそれが実現できれば、ユーザさんに対しては、より高品質のものを今の価格帯のまま提供を続けることができるし、社員のみんなには大きな額の賞与として還元してみんなの収入をぐっと引き上げることができるので、それを目指してやっていきたい。

 

こういう方向に進むための「10人の会社で1万社が使うサービスを目指す」という方針です。

 

ちなみに、エンジニアを募集中です。

こんな方向性でやっているので、興味があるエンジニアの方がいましたら、ラフに話を聞きたいレベルでも全然問題ないので、お気軽にご連絡を頂けると嬉しいです。