ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

受託の会社が資金調達せずに自社サービスを立ち上げて、有料導入2000社に行くまでの振り返り

2019年5月7日に boardの有料契約が2000社を突破したので、振り返りです。

boardのβを公開したのが2014年5月11日なので、β公開から約5年で2000社まで到達しました。

ちなみに、2000社までの推移はこんな感じ。

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1000社までの振り返りは「受託の会社が資金調達せずに自社サービスを立ち上げて、有料導入1000社に行くまでの経営・受託とのバランス(BPStudy発表時の補足)」に書いたので、今回は1000社から2000社までの間を中心に書きたいと思います。

 

1000社から2000社は、約1年半だったのですが、この間はほとんど外にも出ず、ほぼ開発とサポートに注力していました。

そして、boardとしての進め方がある程度固まったというか、自分の中で迷いがなくなった期間でした。

元々あまり迷わず、決めたことを淡々とやっていくタイプなのですが、「うちの会社やboardはこういうスタンスでいいんだな」というのが自分の中でしっくりきたというか、自信を持って言えるようになってきた気がします。

 

ひたすら開発・サポートをやっていた1年半

この1年半はとにかくこれに尽きます。

これはうちの体制的な問題が大きかったのですが、2016年にサポートで採用した人がうまく仕事にフィットせず、2017年にCSのマネージャークラスで採用した人が合わなくてすぐに辞めることになってしまいました。

その結果、1300社くらいまで僕が1人でサポートをやっており、かつ、boardのメイン開発者でもあったので、開発・サポート以外は何もできない状況でした。

2018年3月にサポートで1人入社し、そこから半年は、みっちり付きっきりで教え込んでいました。

boardのサポートでは「boardのCSで大事にしているスキル」にあるようなことに取り組んでいて、要求水準をかなり上げているので、入社してから最低でも半年はかかるイメージで、通常のサポート対応に加え、育成面でかなりリソースを割いていました。

 

ちなみに、前期(2017年12月〜2018年11月)の僕の交通費の経費精算回数が年間で1桁と、たぶんベンチャー社長でトップレベルにどこにも行っていないのではないかと思うレベルで、そのくらい開発とサポートにかかりっきりでした。

ということで、この記事では「こうやって2000社まで伸ばしました」という話は出てきません・・・。

 

boardとしてのやり方

サービス開始後の2年ほどは、検証を兼ねて広告を出したりもしてましたし、集客するにあたって必要なことを見聞きして試すということを繰り返していました。

しかし、弊社に営業やマーケティング担当がおらず、かといって、資金調達をしているわけではないので、先行投資的な採用はできませんでした。

基本的には受託のエンジニアの会社だったので、集客すること・売ることにリソースを割いていたら、回らないなという感じでした。

また、boardは月額980円〜の低価格なサービスなので、広告はペイせず、継続的な手段としては難しいという判断になりました。

そのため、ここ数年は広告も出さず、表立ったマーケティング活動もせず、基本的に口コミか検索からの流入がメインという状況です。

この状況について、「これでいい」と自分で納得するまでには時間がかかったなと思います。

やはり、マーケティング活動したり、広告出稿したり、売るための活動をしていかないといけない、という危機感というか、そういったものは少なからずありました。

 

もちろんやれることはやった方が良いと思ってます。

ただ、リソース的にはできないものはできないし、すべてが中途半端になっても意味がないので、割り切って「やらないこと」を決めていきました。

*ちなみに、この辺りは先日の「明日の開発カンファレンス2019」の発表資料に詳しく書いています。

 

これができた背景としては、

  •  受託で食べていけているので、自社サービスの売上は急がない
  • 当初は自分の1人プロジェクトで、かつ自分自身、受託で必要な売上も上げてたので、他のメンバーに負担もかからない
  • boardへの他のメンバーのアサインは、boardの売上で賄える範囲でやる

という方針でやってたので、売上を伸ばすことを急がなくても大丈夫な持続可能なスタンスでした。

こういった背景から、開発とサポートという、サービスのコアな部分だけに注力していくことになり、また、そうせざるを得ない社内体制でも、迷うことなく注力できました。

 

最近よく言っているのですが「とくにB2Bの場合、多くのユーザはちょっと良い程度だと有名な方を使う」と思っています。

そのため、うちのような無名の小さい会社の場合は「ちょっと良い」ではダメで、「明らかに良い」である必要があるという思いが根底にあります。

それは、仕様・設計・使い勝手・パフォーマンス・安定性・CS・使い始める前の期待値と実態のギャップなど、サービスに関わるすべてというか、ユーザ体験に関わる要素すべてのイメージです。

「良いものを作れば売れる」という時代ではないのは重々承知ですが、小さい会社は、明らかに良いものを作らないと土俵に上がれないんですよね。

それが自分の中ではっきりしたことで、「とにかく開発とCSに注力する」ということに迷いがなくなりました。

 

ちなみに、こういう話を書くと「それで事業として成長できるの?」って聞かれるのですが、1ヶ月の新規有料登録は一昨年が40〜50社前後、昨年が60〜70社前後なので、一応成長スピードも上がってます。

また、有料の退会率もずっと1%以下を維持していて、着実に成長はできているので、急がば回れで強固な土台を作っているイメージですね。

スタートアップ的な急成長を目指しているわけではないので、プロダクトを中心に、時間がかかってもしっかりとした土台を作っていく方法もありかなと思っています。

 

これからやっていくこと

最近「10人の会社で有料1万社が使うサービスを目指す」と言っています。
これは、具体的な数値目標というよりは、人手をかけないサービス運営のための旗印ですね。

それを実現するため、これまでのスタンスは変わらず、より効率的な運用をするための取り組みをしていこうとしています。

さらなる完成度の向上

基本的な方針として、機能の○×では勝負しないので、守備範囲をどんどんと広げていくことは考えていません。

小さい会社は質で勝負していかないと土俵に上がれないと思っているので、今boardが扱っている領域を中心に、さらに完成度を高めていく方針です。

品質管理

現状でもバグや障害の少なさを評価頂くことが多く、品質に大きな課題があるわけではないですが、少人数でより安定したサービス運営をしていくため、品質管理に投資していく方針としており、2018年から本格的に、自動テストの整備などに取り組んできます。

ちなみに、現状7名という規模の会社ですが、専任でQAエンジニアを置きたいと思っているので、興味がある方がいたら、まずは気軽な感じで話を聞きに来て頂いたり、Twitterで話しかけてもらえたらと思います。

SRE

これも品質管理同様、少人数で安定したサービス運営をしていくために、今後、本格的に力を入れていこうとしている分野です。

ヘルプのさらなる改善

現状、350記事ほどあってかなり充実しており、ヘルプの充実を評価頂くことも多いのですが、昨年11月に、元々フリーランス編集者をやっていた者がCSとして入社したのをきっかけに、ヘルプの改善に取り組んでいます。

仕組みとしては下記のようなものを準備し、現在少しずつ、ヘルプの見直し・改善を進めています。

あとは、検索結果の向上など、よりストレスのないスムーズなヘルプにしていこうと思っています。

 

まとめ

「boardのやり方って再現性ないよね」ってよく言われるのですが、「こうやったらうまくいく」みたいな銀の弾丸はないので、自分たちやターゲットなどをよく把握した上で、何をすべきかを考えるようにしています。

とくに自分たちのことをよく知ることは、とにかく大事だと思っています。

 

また、「開発に注力」というと「一点突破」といった印象を持たれることも結構あるのですが、それは少し違っていて、システムだけに限らずサービス全体の「ユーザ体験」を良くするためのことはかなり労力をかけてやっています。サポートやヘルプが良い例ですね。

そして、開発もサポートも「人」がやるので、「人」の本質的なスキルそのものを上げることにかなり軸足を置いています。

 

SaaSのKPIは社内で一言も出てこないし、社長は開発とサポートで引きこもっているなど、よく聞くSaaSのやり方とは大きく異なりますが、うちはスタートアップではないし、 こういうのもひとつのやり方としてありなんじゃないかなと思っています。

ということが、言えるようになった1年半でした。