「小さな会社のSaaSの育て方」と題して、boardの10年間を振り返る連載の第10回です。
これまでのboardの運営で特徴的な点の一つが、プロダクトの責任者であり会社の代表である自分自身が、サポートや個別相談会にかなりの時間を割いてきたことではないかと思います。
サポートについては、以前の回「初めてのカスタマーサポートからサポートが評価されるまで:小さな会社のSaaSの育て方(第4回)」でも取り上げましたが、今回はプロダクト作りにどのような影響を与えたかについて書いていきたいと思います。
有料導入1000社くらいまでは1人でサポート対応していた
boardはもともと、自分一人のプロジェクトとしてスタートしました。最初の数年間は、企画・開発・運用・サポートまですべてをほぼ1人でこなしていました。
実は、何度かサポート担当者を採用して引き継ごうとしたのですが、なかなかうまくいかず、結果的に有料導入が1000社に届くまでは実質的に1人体制が続いていました。
期間としては約4年弱。その後の約2年間も、採用したCSメンバーの育成のためにサポート関連業務を優先していたので、この10年のうち、半分以上の期間はサポートに多くの時間を割いていたと言えると思います。
おそらく、SaaSの経営者の中で、ここまで実際にサポートを担当した人は、あまり多くないのではないでしょうか。
他の業務もあるのでものすごく大変でしたが、それによって多くの問い合わせに対応することができ、結果として顧客の「解像度」がかなり高まったと感じています。
boardでは、ユーザーヒアリングのような取り組みは基本的にしていませんが、ユーザーヒアリングで聞くことができる以上に多様な方々の声や困りごとに触れることができ、これはプロダクト作りにおいて重要な「想像力の引き出し」を増やすきっかけになりました。
プロダクトの仕様を考えるにあたって、これは他に代えがたい財産になっていると思います。
「問い合わせは改善の源泉であり、顧客理解の基盤」だと考えているので、CSチームに対応を任せている現在においても、毎晩、その日のすべての問い合わせに目を通しています。
直接対応はしていなくても、毎日問い合わせに触れ続けている――それだけ、問い合わせには価値があると考えています。
約900回の個別相談会を担当
boardには営業担当がおらず、基本的にはセルフサーブ型で導入していただくサービスです。ただし、導入時の検討支援のために「個別相談会」を実施しています。
これは集合セミナーではなく、各社と1対1で行う形式です。現在はオンライン限定ですが、当初はオフラインでの実施もありました。
1時間枠で、最初は「デモ+質疑応答」という構成でした。現在は、デモはすべて事前に動画でご覧いただく形にし、個別相談会は質疑応答に特化しています。
この個別相談会には他のメンバーが同席することもありますが、基本的にはすべて自分がメイン担当として対応しています。
これもまた、非常に大きな財産になりました。
個別相談会の内容は本当に多岐にわたります。boardの仕様や使い方だけでなく、現場の業務、営業、経理、会計、経営、システム、セキュリティ、外部サービスなど、多方面のトピックに触れます。
それらをプロダクト責任者である自分がすべて聞いているという状況なので、これまでの約900社分の課題感に触れることができ、仕様検討時などの土台になってきました。
また、途中からデモを動画化したところ、非常に好評をいただいています。このデモ動画は単にこちらで考えた内容をもとに制作したわけではなく、数百社に対して繰り返し行ったデモの中で改善を重ねてきた成果であり、その集大成でもあります。
もちろん、すべてのニーズにマッチするわけではありませんが、改善を重ねて洗練させた内容を動画として提供できているのは、個別相談会を重ねたからこそだと感じています。
振り返っての考察
これらは、最初から意図して計画的に取り組んでいたわけではなく、結果的にこうなった側面が強いです。特にサポートは、CSメンバーの採用がうまく進まなかったことによるものです。
ただ、「強いプロダクトを作る」という観点では、非常に重要な蓄積になったと思っています。
「有料導入社数が1000社になるまで1人でサポートを対応していた」「約900回の個別相談会を自分で担当した」と話すと、多くの方が驚きます。
しかし、そこから得られた知見は非常に大きく、プロダクト責任者に限らず、エンジニアなどプロダクトに関わるすべての人に一度は多くの時間をサポートに割くということをしてほしいくらいです。
人間は、自分が見聞きしたことのないものを想像するのが非常に難しい生き物だと思っています。
画面上の文言ひとつにしても、「この言い回しで、そういう受け取り方をされるのか」と驚いた経験は何度もあります。
業界や職種の違いはもちろん、同じ業界・職種でも、会社ごとに文化や業務の進め方、考え方、用語が大きく異なります。
自分の経験が、いかに限られた範囲のものだったかということを痛感します。
もちろん、すべての人に合わせることはできませんし、サービスとしてそこを目指すと誰にも刺さらない中途半端なものになります。
boardでは、「みんなに70点よりも、一部の人に90点以上」のスタンスをとっており、幅広いターゲットを狙っているわけではありません。
ただ、たくさんの「引き出し」を持ち、さまざまなことを想定しながら設計することで、プロダクトの完成度が大きく変わってくると考えています。
小さな会社は、知名度やリソースで勝負することはできず、プロダクトの質で勝負するしかありません。
そういう意味で、プロダクトの責任者が顧客との接点に立ち、顧客の解像度を上げていくことは、非常に重要なことだと考えています。
これだけ多くのサポートや個別相談会を対応してきた蓄積は、boardを作り上げていく上では欠かせないものでした。