ヴェルク - IT起業の記録

受託開発と自社サービスの両立への取り組み

受託の会社が資金調達せずに自社サービスを立ち上げて、有料導入3000社に行くまでの振り返り

2020年9月17日にboardの有料登録数が3000社を突破したので振り返りです。

boardの正式リリースは2014年8月20日なので、約6年ほどで、推移はこんな感じでした。

有料3000社までの推移グラフ

ちなみに、1000社・2000社の時のブログは下記。

tamukai.blog.velc.jp
tamukai.blog.velc.jp


2000社の時のブログに、

1000社から2000社は、約1年半だったのですが、この間はほとんど外にも出ず、ほぼ開発とサポートに注力していました。
そして、boardとしての進め方がある程度固まったというか、自分の中で迷いがなくなった期間でした。 

と書いていたのですが、2000から3000社のこの1年半もほぼ同じスタンスというか、より引き籠もって開発・サポートに注力するスタンスが強固になった感じです。

そのため、あまり特筆するようなことがないのですが、現状、どういう形でboardの開発・運営を行っているのかを書いていきたいと思います。


boardとは

boardは、見積書・請求書の作成から業務管理・経営管理などを行うことができるSaaSで、主に数人〜数十人規模の中小企業がターゲットユーザ層です。

the-board.jp

 弊社自身も僕を入れて10人の小さな会社で、ドッグフーディングしながらboardの開発・運営を行っています。

会社をどんどん大きくしていくつもりはなく、「10人の会社で1万社が使うサービス」を目指すというスタンスでやっています。


開発

昨年まで、開発は僕ともう1名の2人体制でしたが、今年はそのメンバーが産休・育休に入ったので、現在は、僕以外に、他のメンバーがboardに入ったり他のことをやったりと、board本体の開発に関しては、今年は1.5人体制くらいで開発しています。

この1年ほどでエンジニアが2名入って、2人とも「board関連」のことをやってはいるのですが、board本体の開発ではなく、ちょっと違うことに取り組んでもらっています。

1名は「board本体ではないけど、boardに関連した新しい開発」をやっています。

もう1名は、board本体だったり、「boardに関連した新しい開発」に入ったり、この後は「board本体に関して、技術的にじっくり取り組みたいこと」をやってもらう予定です。

とくに「技術的にじっくり取り組みたいこと」については、どうしても僕自身は十分に時間が取れないので、こういったことを他のメンバーが中心にやっていってもらえるようになったのは、とても大きいなと感じています。

 

昨年のデプロイ回数が52回だったように、ここ数年は1〜2週間に1回ペースで何かしらのリリースをしているので、継続的に機能追加・改善を続けているのですが、どんどん機能を増やしていくスタンスではないため、増えた開発リソースをboard本体の開発に投入するのではなく、その分を腰を据えて取り組みたい分野にアサインしているというイメージです。

この取り組み自体が、短期的に売上に直結するとか、そういう類いのものではないのですが、より強いサービスにしていくため、少人数の会社で安定的に運営していくため、といった、少し長い目で見た取り組みです。

 

あとは、表に見えない部分ですが、インフラが強いエンジニアが入ったことでインフラ周りをより強化できたり、セキュリティ顧問に色々と相談できる体制になったので、より効果的な改善や取り組みができるようになったりしました。


サポート

ここ数年で一番体制が変わったのがサポートですね。

有料1300社頃までは僕一人で対応していたためかなり大変でしたが、現在は3名体制となり、基本的にはほぼ僕の手を離れています。

今でも、基本的にはすべての問い合わせは目を通して、必要に応じてCSチームにフィードバックをしたり、問い合わせの内容によっては僕が対応することもありますが、ほとんどはCSチームだけで回るようになりました。

3人で3000社を対応できているのはだいぶ効率が良いと思っていますが、実は問い合わせ量としては、ほとんどの日は2人で対応できます。

CSチーム全体のスキル・知識量が上がったことにより、回答にかかる時間も減ったし、継続的にヘルプの改善などを続けた結果、アカウント数の伸びに対して、問い合わせ量はそれほど増えていません。

そのため、最近は、3人中1人を「余らせる」運用をしています。

サポートは、どうしても自分のペースで仕事をできないので、インプットの時間を安定的に確保することが難しいです。そのため、毎日順番に、1人は「余っている状態」にして、その人は、朝一の問い合わせが多いタイミングや立て込んだとき以外は、基本的にサポートから外れます。

その時間の使い方は様々ですが、

  • 新しい機能のキャッチアップ
  • 知識的に不足している部分の学習
  • 不足しているヘルプ・FAQの追加、わかりにくいヘルプ・FAQの改善
  • 少し離れた視点で他のメンバーの回答をチェックして、必要に応じて指摘

などを行っています。

時間が分断されることなく上記のようなことを行えるため、非常に効率が良くなりました。

業務システムのサポートの場合、業務知識や業界ごとの特性などが非常に多様で、それらを前提とした問い合わせも多くその対応は容易ではありません。
一方、それらを理解しているとすぐに意図を理解できるものも多いため、学習時間を確保できることは、サポート効率や品質にダイレクトに繋がります。

この運用自体は中長期的な視点で考えた取り組みで、継続的なインプットが少ないと、どうしてもCSチームのレベルアップが頭打ちになってしまうと思っています。

うちの社内では「カスタマーサクセス」という言葉が出てくることはなく、CSチームに関しては、「相手の状況・やりたいことを理解して、適切にわかりやすく説明できること」というサポートのコアな部分のレベルアップにひたすら注力する方針で、このためには、様々な業界・業務知識などを継続的に学習し続けられる環境にしたく、この「1人余らせる運用」はとてもお気に入りの運用です。


1年半程前の記事ですが、サポートに関することではこんなブログを書きました。

tamukai.blog.velc.jp


個別相談会

現在は週4回、コロナウイルス以降はオンラインのみで実施しています。

boardの個別相談会は、単なるデモや製品説明だけでなく、情シス的視点(APIやセキュリティなど)や業務改善的な相談なども出ることも多く、引き続き、すべて僕が担当しています。

週4回実施していても1ヶ月前後の待ちになってしまうので、回数を増やしたいところですが、これ以上増やすと、僕が開発する時間が確保できなってしまうため、申し訳ないですが、お待たせしてしまっているという状況です。

ここは今後どうにかしていきたい点ではあるのですが、CSチームはスキルセット的に少し異なり、本当は個別相談会メインで1名いた方が良いんだろうなとは思っているんですけど、なかなか採用が難しく、また、一応目安として、「会社は10人まで」としていて現在10人なので、今は採用を止めていたりします。


営業・マーケティング・プロモーション

相変わらず、とくに何かやっているわけではない状況です。

前述の個別相談会は「営業の場ではない」ので、営業的なフォローアップもしませんし、訪問も行っていません。また、広告なども出していないため、たまに書くこのブログが、多少「露出」の役割を担っているくらいですかね。年間数本しか書いていませんが・・・。

個人的に「営業をされるのが苦手」なので営業をしないスタンスなのと、SaaSは営業をせずに売れるようにしたいという思いもあったりします。

広告は、boardの低価格な料金体系だと回収が厳しく、マーケティング・広報などのメンバーがいないので、そっちにリソースは割けず。

boardのように料金が安いと打てる手もかなり限定されるので、結果的にほぼ何もしてない状況になってしまいました。

ちなみに、最初の1〜2年くらいは色々とやってみてはいたのですが、上記のような結果、今の状態に落ち着きました。


よく「売る気あるの?」とか「もっと売れた方が良くない?」と言われます。

もちろん売れた方が良いですが、身の丈に合わない伸ばし方をするつもりはなく、たとえばサポートがわかりやすいのですが、急成長してサポートのクオリティが維持できない方が嫌なので、10人の小さい会社からすると、約1年半で1000社増えていくペースは事業的には十分で、規模の拡大よりも、クオリティの維持と地に足が付いた強固な事業基盤・体制・サービスにしていければ良いなと思っています。


売上に直結しない取り組み

昨年のカラーユニバーザルデザイン(CUD)対応とか、今年の「セキュリティ割引」とか。

tamukai.blog.velc.jp

tamukai.blog.velc.jp

 

それ自体が多くの人にとって便利になるわけでもないですし、それによってめちゃくちゃ売れるようになるとかでもないですが、世の中がそういう方向性になっていて欲しいなと思うものに取り組んだような形です。

小さい会社なので、そういった方向に投資できる量は限られていますが、CUD対応もセキュリティ割引も、個人的にとてもお気に入りだし、多くの方に好意的に受け止めてもらえたのでとても良かったなあと思っています。


どうやって伸ばしているのか

これよく聞かれます。

前述のように、営業・マーケティング・広告などをやっていないし、SaaSの運営においては当たり前に見ているようなKPIは追っていないし、「どうなってるの・・・」と。

口コミが多いのは間違いないですが、かといって、SNSでバズるようなタイプのものでもないので、正直なところ、よくわからないんですよね・・・。

何かの施策があたって急に伸びるとか、そういうものはまったくなくて、毎年少しずつ増加ペースが上がっているような感じです。

おそらく少しずつ知名度が上がってきて、この分野のサービスを検討する際に候補として名前があがることが増えたとか、クラウドでこういった業務を行う会社が増えているとか、そういうことによる自然増な印象です。

 また、有料継続率も99%超を継続していて、獲得に労力を割けない分、解約が非常に少ないのは、とても大きい点かなと思います。

あとは、世間的には「競合」と見られている会社さんがboardを紹介してくれるケースも意外とあるみたいです。個別相談会などで「当初、○○さんのサービスを検討してたんですけど合わなくて、そしたらその営業さんがboardを紹介してくれて」みたいなパターンです。

僕も個別相談会の中で、boardが合わないような場合は、「そういうニーズならxxxさんの方が合いそうな気がします」みたいなことを言ったりするので、そういう感じかなと。

 

当初から「無名な小さい会社のサービスは、知名度やブランド力では絶対に勝てないので、システムそのもので勝負するしかない」という思いがあります。似たような内容・レベル感のサービスであれば、普通は有名な方を選ぶと思うんですよね。

トライアルしてもらう機会があって、boardがその会社の業務にフィットするようであれば、「他のサービスよりもずっと良い」と感じてもらうことを目指していて、それが小さい会社のサービスの戦い方ではないかなと思ってやっています。


今後の方向性

基本的には、どんどん守備範囲を広げていくつもりはなく、今のターゲットの中で、より強くしていきたいと思っています。

うちの会社自体が小さい会社なので、「数人〜数十人規模の会社」や「受託型のビジネスモデル」というターゲットの軸は変えたり拡大していくことは考えていません。

頂くご要望は膨大で多岐にわたっていて、当然不満に感じている会社さんもいるのは重々承知していますが、全員に70点台のサービスではなく、フィットする会社にとって90点以上のサービスを目指していくべく、現在の方向性を維持しつつ、より強化していきたいと考えています。

あとは、やはりビジネス環境は常に変化しているので、それらに対して、早すぎず遅すぎず、タイムリーに対応していく必要性は強く感じています。